因習村で贄やってるけど、思春期なので外に出ます

【記者】

 男は、記者を名乗った。

 まず目立つシアンに一瞥をよこし、こんな田舎にもかっこいい子がいるものだなぁと感心した顔をして、それからカンジをみて露骨に安心した様子をみせた。

 思い描いていた田舎者の像にはまったのだろう。

「いやー、参った参った。助かったよ。すっかり迷子になって」
 五十手前くらいだろうか。かなり身なりに気を配っていて若々しい。全身からまだ自分は現役なんだという主張がはみだしている。
 シアンにムダな対抗心を燃やしているのか、迷子にしては目つきが攻撃的だった。

「この辺はもう森しかないですよ。取材やったら西の方へずっといくと町役場があります」
「君たち高校生?」
 シアンがそつなく誘導したが、立ち去ろうとしない。

「この町、どこもかしこも電波わるくて困らない? マップアプリが全然ダメでこのありさまだよ」
「電波で困ったことないですけど」
 カンジが答えると、記者の男は信じられないという顔をした。

「本当に? 慣れているとそういう感覚になるのかな。まぁいいや、せっかくだから、君たちにも取材をお願いしていいかな」

 男はカンジとシアンそれぞれに名刺を差し出した。
 杉本五雄というらしい。

「そんなかしこまったのじゃなくて、町のリアルな声がききたいんだ」
 二人は顔を見合わせて、小さく頷いた。

「この町の出生率が日本一なのは知ってるかな?」
「それはまぁ。有名ですからね」

「この町は住みやすいかい? 将来ここで子どもを持ちたいと思ってる?」
「いや、そこまでまだ考えてないです」
「高校生だろ、何年生?」
「三年です」

「卒業後どうするか決まってるの、君は?」
 基本的な受け答えはシアンがしていたが、指名されてしまうとカンジも答えざるをえない。
「僕は、神社で働く予定です」

「おお、すごいな。ある意味サラブレッドだ。高卒で、この町から一度も出ず、きっと地元の女の子と結婚して、たくさん産ませるわけか」

「ちょっと、そんなん決まってないーー」
「かっこいい君は?」
「僕は、二十歳までは自由にしてええっていわれてるから……」

「二十歳? 男の子の入れる短大なんてあったかな。まぁ、二十歳すぎたらここで腰を落ち着けろって話かな。すごいなぁ、いやほんと、ほとんど人が動かないんだね」

 すごいを連発しながら、馬鹿にしているのは明らかだった。

「新しい知識や価値観っていうのは、人の移動にともなってもたらされることが多いんだ。でもここにはそれがない。だからこの町は、とても古い」

 カンジはイライラしていた。取材とかいって、ただ失礼なだけじゃないか。
 杉本は、二人の反応を気にすることなく自分の話を続ける。

「多産DVって知ってるかい? この町で起きていることは、町ぐるみの多産DVと言えるんじゃないかと考えている」
「たざん……?」

「多産DV、つまり、いっぱい子どもを産ませる暴力。妊娠で女性が負うリスクを考えたことがあるかい? 出産で女性が負うダメージを考えたことがあるかい? 子育てで女性が払う犠牲を考えたことはあるかい? 有名なところで言うと、産後の女性は全治一ヶ月の交通事故に遭ったのと同じだ、という説がある。とすれば、五人子どもを産ませると言うことは、五回交通事故にあわせるのと同じ、つまり暴力なんだ」

「そんなん、乱暴な考え方や」

「確かにそうだ。だがそういう側面があることは事実だ。実際にそう訴える女性もたくさんいる。ーーこの町の外にはな」

ーー町の外には。

 杉本の話は完全に新しい価値観で、カンジとシアンには衝撃が深かった。

 この町には、命を産むことを悪く言う人はいない。

「子だくさんが必ず悪いってわけじゃない。それは同然だ。でもこういう考え方があるっていうことを知らずに子だくさんなのと、知った上で子だくさんを選択するのは違うだろ。ーーこの町には選択がないんじゃないか、俺はそう思う。町ぐるみの多産DVってのは、そういう意味だ」

 この町には、選択がない。

 カンジにも、シアンにも、この町では選択がない。
「こんなん、取材じゃない……」

「高校三年生、教育すればまだ間に合うと思ってな。君たちがいま愚かなのは君たちのせいじゃない。だけど俺の話をきいて何が正しいのかわからないようなら、この先も愚かだろう」

 杉本はそういうと、シアンが教えた町役場の方角へ消えていった。