【ホームルーム】
十七歳になった守田カンジは、ホームルームの行われる教室の窓際で、ーーひとりコンプレックスにまみれていた。
周りを見渡せば、みんなはなんかシュッとしている。シュッとしているとは、かっこいいということだ、
カンジは自分の手を見て体を見て、窓ガラスに映った顔を見た。
太い。
控えめに言ってもぽっちゃりしている。あと顔色が悪いし、手の色も妙に白くてなんだろう……、ヒラメやカレイの裏側っぽい。
うっ、ヌメッた質感がやだ。
だいたい、この名前も悪い。両親はこの名前をありがたがるけど、カンジって、古いしダサい。いかにこの町が田舎でも、キラキラネームの波は押し寄せてきているのだ。
このクラスの一軍女子だって、北畑カリンちゃん、中野エマちゃんと洋風な名前だし、一軍男子にいたっては守矢ハルト君に、守村シアン君。芸能人かよ、みたいな名前をしている。
カンジは、ため息をついて前の席の大きな背中をみつめた。
守村シアン。
カンジとは全く違う、ゴツゴツした体の線が服ごしにも見える。すらりとした手足は広げると威圧感すらあるが、すこし猫背なのがおどろくほど彼の雰囲気をやわらかくしていた。
正直、憧れる。
制服の着こなしからなにから、かれがやると最高にかっこよく見える。
それに比べて自分は。
もう一度窓ガラスに映った自分を眺める。小太りの体に、糊とアイロンが効きすぎてなんか不自然にツッパったシャツ。かと思いきや生気の無い顔。
なんか歪んでる。
カンジの口からまた、ため息がもれた。
「カンジ君、どしたん?」
振り向けば、前の席のシアンが、カンジのため息に反応してこちらを伺っていた。
「うるさい、前むけ」
普通だったら、小太りの自分が一軍のシアンにこんな口をきくなんてありえないだろう。後で袋叩きにあうはずだ。
「具合、悪いん?」
シアンの声はやさしい。大きい体に釣り合ってない、肺活量五ミリか、みたいな音量で話す。うそ、ちょっと盛った。五ミリはいいすぎた。
とにかく、やさしいママみたいに話すくせに、妙に低くて体にひびく。
「昨日、奉納やったんやろ?」
言われて、ゾクっとした。昨日神様に自分をお供えしたアレを思い出す。おまけにシアンの声が体ひびいて落ち着かない気持ちになる。
神様の息遣い、アレも、カンジの体をおかしくさせる。
太い血管の上を、湿った息が這う。
あつい息、あつい手、つられてあつくなる体。
ーーカンジ君、おいしいよ。ありがとう。
感謝されるのは悪くない。悪くないはずだ。
仄暗い満足感を無難なことばでごまかして、ぞくりと震える体をなだめた。
「先生、カンジ君具合悪いみたい」
「ちょ、やめて。大丈夫やから」
黙り込んだカンジを見て、シアンは勘違いしたようだ。
「守田、具合悪いんか。保健室行くか?」
「大丈夫です」
「まぁもう帰るだけやからな。南の方の子らと一緒に帰れよ」
自分の話題が終了してほっとしていると、いよいよホームルームも終わりにさしかかった。
「最後に、また国が出生率のデータ公表したから、記者の人が町の取材にくるやろ。みんな慣れてるから大丈夫やと思うけど、贄のことは言わんようにな。ほな、さようなら」
シアンがカバンを持ってサッと立ち上がり、カンジの隣にくる。
「カンジ君、家までおくるわ」
「いらんて。知ってると思うけど、徒歩五分やぞ」
「けど先生もいうてたやん」
「シアン君さ、そんな先生のいうこと聞くキャラやっけ?」
シアンがすんすんと鼻を鳴らす。
「なに?」
シアンにかまってもらえるのは嬉しいが、こういう関係は嫌だ。義務感だけでカンジといたってきっと楽しくない。
「もういい? また明日な」
カンジは糊の効いたシャツを虚勢で膨らませた。
十七歳になった守田カンジは、ホームルームの行われる教室の窓際で、ーーひとりコンプレックスにまみれていた。
周りを見渡せば、みんなはなんかシュッとしている。シュッとしているとは、かっこいいということだ、
カンジは自分の手を見て体を見て、窓ガラスに映った顔を見た。
太い。
控えめに言ってもぽっちゃりしている。あと顔色が悪いし、手の色も妙に白くてなんだろう……、ヒラメやカレイの裏側っぽい。
うっ、ヌメッた質感がやだ。
だいたい、この名前も悪い。両親はこの名前をありがたがるけど、カンジって、古いしダサい。いかにこの町が田舎でも、キラキラネームの波は押し寄せてきているのだ。
このクラスの一軍女子だって、北畑カリンちゃん、中野エマちゃんと洋風な名前だし、一軍男子にいたっては守矢ハルト君に、守村シアン君。芸能人かよ、みたいな名前をしている。
カンジは、ため息をついて前の席の大きな背中をみつめた。
守村シアン。
カンジとは全く違う、ゴツゴツした体の線が服ごしにも見える。すらりとした手足は広げると威圧感すらあるが、すこし猫背なのがおどろくほど彼の雰囲気をやわらかくしていた。
正直、憧れる。
制服の着こなしからなにから、かれがやると最高にかっこよく見える。
それに比べて自分は。
もう一度窓ガラスに映った自分を眺める。小太りの体に、糊とアイロンが効きすぎてなんか不自然にツッパったシャツ。かと思いきや生気の無い顔。
なんか歪んでる。
カンジの口からまた、ため息がもれた。
「カンジ君、どしたん?」
振り向けば、前の席のシアンが、カンジのため息に反応してこちらを伺っていた。
「うるさい、前むけ」
普通だったら、小太りの自分が一軍のシアンにこんな口をきくなんてありえないだろう。後で袋叩きにあうはずだ。
「具合、悪いん?」
シアンの声はやさしい。大きい体に釣り合ってない、肺活量五ミリか、みたいな音量で話す。うそ、ちょっと盛った。五ミリはいいすぎた。
とにかく、やさしいママみたいに話すくせに、妙に低くて体にひびく。
「昨日、奉納やったんやろ?」
言われて、ゾクっとした。昨日神様に自分をお供えしたアレを思い出す。おまけにシアンの声が体ひびいて落ち着かない気持ちになる。
神様の息遣い、アレも、カンジの体をおかしくさせる。
太い血管の上を、湿った息が這う。
あつい息、あつい手、つられてあつくなる体。
ーーカンジ君、おいしいよ。ありがとう。
感謝されるのは悪くない。悪くないはずだ。
仄暗い満足感を無難なことばでごまかして、ぞくりと震える体をなだめた。
「先生、カンジ君具合悪いみたい」
「ちょ、やめて。大丈夫やから」
黙り込んだカンジを見て、シアンは勘違いしたようだ。
「守田、具合悪いんか。保健室行くか?」
「大丈夫です」
「まぁもう帰るだけやからな。南の方の子らと一緒に帰れよ」
自分の話題が終了してほっとしていると、いよいよホームルームも終わりにさしかかった。
「最後に、また国が出生率のデータ公表したから、記者の人が町の取材にくるやろ。みんな慣れてるから大丈夫やと思うけど、贄のことは言わんようにな。ほな、さようなら」
シアンがカバンを持ってサッと立ち上がり、カンジの隣にくる。
「カンジ君、家までおくるわ」
「いらんて。知ってると思うけど、徒歩五分やぞ」
「けど先生もいうてたやん」
「シアン君さ、そんな先生のいうこと聞くキャラやっけ?」
シアンがすんすんと鼻を鳴らす。
「なに?」
シアンにかまってもらえるのは嬉しいが、こういう関係は嫌だ。義務感だけでカンジといたってきっと楽しくない。
「もういい? また明日な」
カンジは糊の効いたシャツを虚勢で膨らませた。
