【汚い鏡】
うわっ、寒っ。さゆりが異動になってから三ヶ月が経ち、空気はすっかり冷たくなった。
三ヶ月たってますます少食になったシアンは、それでも健康そうだ。少しずつ神に近づいているんだろう。
でもひとつ安心したのは神になったからと言ってシアンが消えるわけではないということ。シアンはシアンという人格を保ったまま子安神を引き継ぐことになるらしい。
そうなると子安町を離れられなくなるので、カンジたちのモラトリアムは長くともそれまで。いよいよタイムリミットを実感してきた。
おっと、もうバイトに出かける時間や。カンジは出勤の準備を済ませ、玄関ドアに手をかけた。
「じゃぁ行ってきます」
「うん。気をつけてね」
見送りに玄関まできてくれたシアンに声をかける。
「あ、れ? 鍵の故障かな」
ドアノブを回そうとしたが、何かがひっかかっているのか上手く回らない。
「えっ、具合わるい?」
シアンがドアノブを回してみると、すんなり開いた。
「あれ、普通に開いたな。なんか噛んでたんかも。ありがとうシアン」
カンジは玄関から足を踏み出した。モラトリアムはもうすぐ終わる。逃げるわけにはいかないのだ。全ての現実から。
店に着くと、桑久保がすでに出勤していた。
「守田君……。今日も来たんか。大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ」
桑久保が心配しているのは、新しい店長とカンジの関係のことだ。
さゆりが東京へ行ったあとやってきたのは、大阪の別店でてんちょうをしていた細川真という男だった。
細川はさゆりから引き継ぎを受け、従業員のこともある程度教えてもらっていた。そして、カンジが子安町出身だということをネタにして、かつての堀と同じような絡み方をしたのである。
カンジは堀の時のように真摯に対応したのだが、細川は恥をかかされたと思たようだ。それから執拗にカンジにあたってくるのだ。
カンジが細川の悪い冗談を拒絶した時、細川の顔が一瞬ものすごい角度につり上がり、そのあと気味の悪い猫なで声を出した。
「ごめんなぁ守田君。俺はそんな上品な育ちじゃなくてさぁ。守田君はええ家で育ってええ物食べてるからそんな体型なんやろなぁ」
明白な悪意だった。
店長、こんな言い方せんでもいいのに……。でも確かに僕も、みんなの前で反論するべきじゃなかったかも。まだ人間関係へたくそやからな。反省反省。
カンジは、あえて軽く考えた。まだ細川との関係はやり直せると。
次のバイトで、カンジは立っているだけで怒鳴られた。
「おい守田! お前そこは店の動線や! ボーッと立つな! こういうのはなぁ、結局気遣いとか優しさの問題や。まわりのみんなが動きやすいようにしようって考えたら、そんな所にボーッとたつなんてありえへんはずやけどな」
別に、ぼうっと立っていたわけではなかった。
魚を運んでいる途中に水滴で手が滑り、持ち直していたただけなのだが、細川にはぼうっとしているように見えたのかもしれない。
確かにここは動線だし、もう少し我慢して別の場所で持ち直すべきだったのかも。反省反省。
次のバイトで、カンジはエビの殻むきがなってないと怒鳴られた。
「おいこのエビやったん誰や! 守田お前か。はぁー、こんな殻だらけのエビお客さんに出すんか。お前の仕事やろ、ズルせんとちゃんとやれ。責任感ないんか」
新しい小エビはあんまりむくと身がボロボロになってしまうからほどほどにと教えられたのだが、細川店長は綺麗にむいてしまう方針みたいだ。確認せんかって悪かったな、反省。
その次も、そのまた次も、カンジは細川に怒鳴られた。
怒鳴られるのは嫌だが、確かに自分にも悪い点はあったなと反省して、改善していけば成長もできるし、細川にも認めてもらえるだろう。
ここでバイトを始めてから一年弱、高峰やさゆりから成長が速いとほめられていたし、みんなとも上手くやれていた。
カンジにはちょっと自信もついていたし、細川に認めさせたいという意地もあった。
注意されたところをちゃんと直して、まわり人のことを考えて動けば、良くなっていくはず。
カンジはそう思って、この三ヶ月弱、弱音を吐くことなく頑張ってきた。
頑張ってきた、はずなのだが、最近ミスが増えてきた。
おかしいな、気をつけているはずなのに。どうしてうまくできないんだろう。しかもミスを気にし過ぎて、周りにも気を配れていない。「おい守田、自分のことだけ考えんな」と、何回言われたかわからない。
今日こそちゃんとしなければ。
そう思うとドキドキしてきた。プレッシャーが強い時は、ショートコントだと思えばいいとネットで見たことがある。面接の前に「ショートコント、面接」と唱えれば緊張がとれると。
カンジは心のなかでショートコント、バイトと唱えてキッチンへ向かった。足は、すこし震えていた。
なんだかちょっと、自分の体じゃない感じがする。感覚が遠い。
カンジは高峰からマルハギを渡され、皮と苦玉の処理を頼まれた。多分返事をしたと思うのだが、自分の声がよく聞こえなかった。
ショートコント、ショートコント、ショートコント。これはショートコント。だから落ち着いて、丁寧に一匹ずつやればミスしないはず。震えるな、震えるな。
処理が終わったときには汗びっしょりになっていた。処理済みの冷蔵庫に入れると、どっと疲れがきた。
しばらく別の作業をしていると、冷蔵庫を開けた細川が威嚇するような声を出した。
「おい、誰や!」
キッチンの空気が凍りつく。
「このマルハギやったん誰や」
カンジは頭から全ての血がなくなっていくのを感じた。咄嗟には声が出ず、ゆっくりと挙手する。
細川は冷蔵庫から一匹取り出し、カンジの目の前につきつける。そのマルハギには、腹に切れ目が入っていなかった。
「苦玉取ってへんやんけ。お客さんにどんな料理出すつもりや。店潰したいんか」
あんなに注意してたのに、こんな基本的なミスをしてたなんて。カンジは愕然とした。
凍りついたキッチンに、細川のため息が響く。
「この三ヶ月お前ずっとこの調子でさ、反省する気ないやん。ちょっとはまわりに気遣おうとか、お客さんにちゃんとしたもん出そうとか、そういう気持ちないん」
「す、すみません。ちゃんとしようって、気をつけてたんですけど」
なんとか声をしぼりだす。この三ヶ月は、反省して、改善しようとして、やっぱりうまくいかない、の連続だった。それでもカンジなりに頑張っていたのだ。その気持ちや努力ごと否定されると辛い。
「いやお前、さすがに騙されへんぞ。そんな口だけで。お前の行動見てたらわかるわ。まわりもお客さんのことも見てない。ほんで口だけの反省って、人間として最低や」
「そんな、騙すとかじゃ……」
「ほなわざとじゃなくてこれか。もっと救いようないわ」
何回も注意されたのに直せなかった。わざとじゃない。でも、それでも迷惑をかけてしまうのには変わりない。全力で頑張ってこれやったら、僕は、僕は、どうしたらいい?
体と魂が切り離されたみたいになって、その後のことは薄ぼんやりして、気づいたら家に帰っていた。
ほっとするものの、明日もまたバイトやとおもうと怖くなってきた。また自分は失敗してしまう。
細川の言葉が頭の中で追いかけてくる。こういうのは結局気遣いとか優しさの問題。お前には責任感ないんか。おい守田、自分のことだけ考えんな。
どうしよう、僕が自分勝手な人間やから……。
情けなくて泣きそうになるがなんとかこらえた。玄関で突っ立っていてもしょうがない。カンジは小さくただいまというと靴を脱いだ。
あれ、何これ。
足元に、朝にはなかったはずの缶が置いてある。黒いキャップの、ホームセンターでよくみる缶だ。
あっ、シアン。僕が朝、鍵の調子が悪いって言ったから、油さしてくれたんや。
気づくと同時に、自分に対する嫌悪感がどっと押し寄せた。
ぼくが言ったことやのに、今の今まですっかり忘れてた。バイトのことで頭がいっぱいいっぱいで、周りのこと全然見えてない。だからあかんのや。こういう所を、店長は言うてるんや。
こらえたと思った涙がまたじわりと滲んでくる。自分の嫌なところも、ちゃんと見なあかん。カンジは鼻をすすって、なんでもない顔をして部屋に入った。
多分、いつも通りにできたと思う。シアンも何も言ってこなかったし、変なところはなかったはずだ。今日は眠って、明日また頑張れる、うん。
翌朝、何事もなく目覚めた自分にホッとする。シャツにアイロンをかけて袖を通す。寒くなってからはアイロンかけたてのホカホカシャツが気持ち良くてすっかりお気に入りだ。
まちがっても遅刻はしないように、時計ばかり見て午前中を過ごした。
そして出発時刻。いってきますと声をかけて、玄関のドアに手をかけた。
あれ? ドアノブが、やっぱり動かない。そしていつのまにかシアンが後ろに立っている。
「シアン、ドア開けてみてくれへん?」
「カンジ君、バイトは休んだ方がええんちゃう」
「いやいや、玄関開かへんから休みますなんか聞いたことないわ」
シアンが動こうとしないのでもう一度ドアノブを回してみるが、やっぱり開けられない。カンジは焦っているのに、やけに落ち着いたシアン。もしかして。
「シアン、お前、ドアになんかした?」
「カンジ君、鍵は壊れてないし、ドアは普通に開くよ」
「いや、開かんから困ってんねん」
ドアは天の岩戸のようにぴくりとも動かない。シアンはだまって電話をかけ始めた。修理業者にかけてくれているのだろうか。
「もしもし、僕は守田カンジの同居人の守村シアンと申します。はい、いつもお世話になってます。あの、守田なんですが、かなり具合が悪いみたいで、最低でも一週間はお休みすると思います。ーーええはい。すみませんがよろしくお願いします」
シアンが電話を切る。え、今、僕のバイト先に電話して勝手に休みの連絡入れた? なんで。シアンがバイトに行くの妨害してる?
「カンジ君。少なくとも一週間はお休みしたから。もう今日はバイト行かんくていいよ」
「いやいや、勝手に何してーー」
「カンジ君」
シアンが、カンジの声を遮ってドアを指差した。
「鍵は壊れてないし、ドアは普通に開くよ」
カンジはそろりとドアノブを回す。なんの抵抗もなく、ドアは開いた。
開いた……。
本当は気づいていた。今日はバイトに行かなくていいと言われたとき、心がすうっと軽くなった。ドアが開いてもバイトに行かなくていい。そう理解した途端、ドアが開いた。
おかしくなっていたのは、ドアでも鍵でもなく、カンジの方だ。
僕は現実と向き合われへんかったんや。カンジは何か大きなものに敗北した気がして、その場に崩れ落ちた。
「シアン……、僕、ダメやぁ。僕、何、してるんやろう。自分のことばっかりで、何もできてないのに、こんなんなって」
カンジはしゃくりあげながら、自分のダメなところを列挙していく。
あんなところもダメ、こんなところもダメ。仕事の仕方も、立つ位置さえもダメ。自分勝手でダメ。他人を慮れなくてダメ。結局のところ、優しさが足りてなくてダメ。こんなん子安町のことを考える以前の問題や。しかも、ちょっと自分ではできてると思ってたから痛すぎる。思い上がってた自分を殴りたいーー。
こんな自分は嫌だ。誰かの役に立ちたい。喜んでもらいたい。でも、こんなダメなやつがどうやって?
「シアン……、た、たべて」
カンジはすがるような目でシアンを見た。シアンは玄関で座り込むカンジの横にゆっくりとしゃがんだ。カンジの髪を耳にかけ、とろりと言葉を流し込んだ。
「おいしそうなカンジ君。食べてあげるね」
うっとりとしたシアンの声を聞いて、カンジはやっと息が吸えた気がした。
へたりこんだカンジを担ぎあげ、部屋の中まで運ぶ。やわらかいラグの上に優しく転がして、シアンはカンジの首筋に鼻をうずめた。
「かわいい、かわいいカンジ君。健気で、最高の伴侶」
匂いをかぐ合間に、熱い吐息と一緒に恥ずかしいくらいの愛を囁いてくる。シアンの低い声が鼓膜を振るわせるたび、カンジの体はビクビクと跳ねた。
「食べてやって、かわいすぎる。僕のカンジ君が、食べてって。嬉しくて頭おかしくなりそう、はぁっ」
ああ、シアンが喜んでくれてる。肩を押さえる手も、耳にかかる息も全部熱くて、シアンが興奮しているのがわかる。
「好き、あいしてる。面白いところも、かわいいって言ったら恥ずかしがるところも、頑張り屋なところも、子安のみんなのために考えすぎなくらい考えてるところも。自分よりひとを優先してしまう優しいところも、全部好き」
「う、うわああん」
こらえきれずカンジは泣き出した。自分はそんなんじゃない。シアンの期待には応えられない。
「ち、ちがうっ! 僕はっ、そ、そんな人間じゃない。自分勝手で、いまもシアンに迷惑かけてっ」
カンジの目からポロポロと涙がこぼれる。シアンは、その涙を優しく舐めとった。
喉が大きく動いて、涙が、シアンの体の中に落ちていく。
「カンジ君、見て」
言われなくても、カンジはその様子を凝視していた。
「僕、迷惑そう?」
シアンの表情は恍惚として、今カンジとこうして「食事」ができることを心底喜んでいるようだった。
「よく見て」
シアンは見せつけるようにカンジの腕を持ち上げ、ガブリと歯を立てた。ゆるやかな歯形を残して離れていく。
「大好き。あはは、カンジ君も嬉しそう。かわいい。もっと、もっとちょうだい」
シアンに求められて、急速にカンジの心が満たされていく。棘に刺されて穴だらけになっていた心が埋まっていく。
気づけば涙は止まって、カンジの体は安心しきった赤ちゃんのようにふにゃふにゃになっていた。
「かわいい、好き。つきたてのお餅みたい。とろとろで、でも奥に歯ごたえもちゃんとある。優しくて、でも芯のあるカンジ君と一緒やね」
おでこ、目元、頬、首筋、肩、腕、指先と、順番にキスを落としていく。シアンのキスはどこにされても刺激が強すぎる。そこから沸騰したみたいになるし、力は全く入らなくなるし、幸せな気持ちが無限に積み重なって頭がバカになりそう。
「大丈夫、カンジ君は賢いし、カンジ君が幸せなんやったら僕も嬉しいな」
また指先にキス。唇で食んで、カリ、と歯があたる。
ダメやってシアン、おかしくなるから。
「はぁっ、かわいい。賢くて優しくてかわいいカンジ君。もうとろとろやね。ねえ教えて。僕のカンジ君を、こんなに傷つけたのは誰?」
カンジにはもう、何かを隠しだてするみたいなことは思いつきもしなかった。新しい店長とのやりとりを、シアンに問われるがまま答えていた。
2−9
*
「落ち着いた?」
シアンがカンジにお茶を渡してくれる。
「うん、だいぶ」
「よかった。僕もだいぶ暴走した自覚がある。カンジ君に食べてって言われた時と、細川の話聞いた時と」
カンジは、暴走したシアンを思い出す。確かに、止まれないという感じがすごかった。いや、全体的にすごかった。シアンが全力でカンジの存在を認めてくれたから、カンジは傷を癒すことができた。
「僕、だいぶ考え方がおかしくなってたなって、今やったら分かる」
細川の、ひとつのミスを捉えてその人の人格に問題があるかのように責め立てる手法。ミスは確かにしたけど、だから優しさが足りてないとか、そんなんはおかしい。
「自分の悪いところと向き合おうとするのはカンジ君の誠実さやけど、細川の言葉には向き合わんでいい。だって、ただ攻撃したいためにこじつけてるんやもん」
「……うん」
まだちょっと、心のどこかに自分も悪かったからこうなったのではという思いがある。多分それは、今回負ってしまった心の深いところの傷なんだと思う。
傷に沿って、思考が流れてしまう。
「ほんまに、シアンがいてくれてよかった」
「カンジ君、忘れんといてね。僕もカンジ君がいてくれてよかったって思ってるってこと」
「え?」
「僕が今いろんなことを受け入れて普通でいられるのは、カンジ君が僕を受け入れてくれたからなんやで」
僕なりに、シアンの助けになってたんか。
「なんかこういうのって、いいな」
カンジは、シアンの言葉を素直に受け取った。
*
一週間後、カンジは玄関のドアを開けた。
「じゃあ、行ってきます」
澱みなく、一歩を踏み出せた。よし、大丈夫そう。
「無理したらあかんからね」
「うん。無理したらあかんな」
今回のことで、限界を超えて頑張るのは危ないとわかった。細川の言葉を真に受ける必要がないこともわかった。ちょっとパワーアップしたのだ。
カンジの返答に少し安心したのか、シアンはいってらっしゃいと送り出してくれた。
店に入ると、中は騒然としていた。異様な空気が漂っていて、バイトのスタッフたちは壁際に集まっているようだ。
桑久保と高峰を見つけ、そばに寄る。カンジに気づいた高峰が声をかけてくれた。
「守田君! 体調は大丈夫なん、絶対ストレスが原因やんね?」
「まぁ、あの……はい、多分」
ちょっとカッコ悪いなと思っているので、歯切れの悪い返事になってしまった。
「あの、それよりなんかあったんですか?」
「実は、店の金がなくなった。多分、犯人は堀」
「桑久保! まだ決まったわけじゃないやん!」
「でも昨日あんなことがあっての今日やで。堀以外考えられん」
桑久保が詳しい説明をしてくれる。
どうやら、カンジが休んでいた一週間、堀が店長から目をつけられ、新たないじめのターゲットになっていたらしい。
「店長、堀にネチネチ嫌味を言ってたんやけど、堀はそういうのスルーするんが得意やから聞き流してたんや。でもそれがさらに店長の神経を逆撫でしたみたいで、嫌味がどんどんエスカレートしていってん」
細川は、自分の攻撃が思ったように相手を傷つけられていないのが癪だったのだろう。
「それでついに、堀の音楽のことディスりだして……。堀は、音楽のことバカにされんのは無視できへんから」
堀の弱点をついたと思って気持ちよくなったのだろう。細川はそれから音楽を引き合いに出しては堀を貶した。
「それでとうとう昨日、堀が爆発してもうたんや。店長とガチ喧嘩して、絶対慰謝料払わせるからなってセリフを残して途中で帰ってん。すごかったで」
横で高峰が大きく頷いている。
「それで今日きたら店の金がなくなってた。一円残らずな。店を荒らされてる様子もないし、強盗に入られたっぽくない。これは……堀がやってもたんちゃうかなって」
「全然連絡つかへんし、もー何やってんのやろ」
金庫の方を見ると、細川と副店長の佐藤が話し合っている。カンジは副店長とあまり接点がなかったが、さゆりと一緒にみんなから慕われていた。
細川も佐藤には一目置いているようで、丁寧な態度で接しているのがわかった。
「じゃあ店長、先に外で待ってますね」
「おう、俺もバイトの子らに指示だけだしたら行くわ」
話し合いが終わり、細川がこちらにやってくる。カンジに気づくと、一変して攻撃的な笑みを浮かべた。来る、と身構える。
「おお守田、守田が休みの間みんなすごい大変やったで。忙しいときに急に一週間も抜けるから、堀もストレス溜まったんやろなぁ。それで、守田はゆっくりできたか?」
ひと息で何個嫌味をいえるかギネス記録に挑戦してるんか、と思った。すごい。休む前やったらまともにくらってた。シアンすご。
「ご迷惑をおかけしました」
「でたでた! また口だけのやつ」
事件のせいでイライラしている細川の口調はどんどん激しさを増していく。
「そういえば守田、堀と仲良かったよなぁ。タイミングもタイミングやし、二人で結託してやったんちゃうんか」
さすがにギョッとしてしまった。まさか、休んでいたのに横領の疑いをかけられるとは。
「ちょっと荷物みせろ」
「えっ」
「見せられへん理由でもあるんか」
高圧的に、叫ぶような音量で捲し立てられる。
この人、傷つけられたらなんでもいいんや。カンジはこんな時だというのに妙に納得してしまった。誰でもいいし、なんでもいい。でも、やりやすそうな人から狙う。
堀にターゲットを移して、堀がいなくなったらまたカンジ。休んだことを責めて、引け目を感じさせて、あまつさえ堀のストレスさえカンジのせいにする。
犯人扱いされることがカンジを傷つけると理解して、傷つけるためにやっている。獲物を追い込んで楽しむような、残虐な遊び。
カンジは冷静だった。細川に周りを見ろと怒鳴られても視野は狭まるばかりだったのに、今は周りもよく見えた。
みんなうつむいて、早くこの時間が過ぎて欲しいと祈っている。この災害が自分に降りかかりませんようにと祈っている。
その祈りの中心で、一人犠牲になっているカンジはまさしく贄だった。
子安町の外にも贄はあるんや。
その気付きは、まるでパズルの最後のピースのようにカンジの心にパチリとはまった。
なんか、わかった。僕の進むべき道。
「店長、まだかかります?」
そこへ、先に外へ出ていた佐藤が戻ってきた。細川が小さく舌打ちする。
「お前ら、俺と副店長は警察に行ってくるから、開店準備ちゃんとしとけよ」
店長が出ていくと、店の空気が動き出す。のろのろと、それぞれが料理の支度を始めた。
「ほんまに堀なんかな」
高峰はずっと堀が犯人だとは思えないようだった。
「堀はいろいろ小狡いところはあるけど、ほんまに犯罪までやっちゃう奴なんかな」
「でも音楽のためやったら見境なかったし。一回CD出すのにヤバめのところで金借りてたことあったやん」
桑久保が見境のなかった過去話を持ち出すと、高峰は頭を抱えた。
「あった……あったね」
「あの、今回無くなったお金っていくらくらいなんですか?」
カンジが尋ねる。
「201,551円」
桑久保が即答する。
「え、桑久保すご。なんでそんなん覚えてんの」
「覚えやすい数字やったから」
高峰とカンジが首をひねる。どう考えても中途半端な数字だと思うのだが。
「まず下三桁が551で『蓬莱』やろ。そしたら頭の201は『におい』でめっちゃ覚えやすいやん」
「すご……すごいけど無駄」
「受験のときに、何でも語呂合わせする癖がついたからな」
「おお、さすが歯学部生」
自然と笑いが漏れる。さゆりがいた頃の帰魚来は、こんな風にくだらない話で盛り上がってずっと楽しかった。
くだらない話で調子を取り戻し、カンジたちは開店準備をすすめた。しかし、開店時刻が迫って来たというのに、細川と佐藤は帰ってこない。
「どうする、店長たちおらんけど店開ける?」
高峰が不安そうに尋ねる。
「釣り銭もないしな」
桑久保の指摘通り、今この店には一円もない。その時、店の電話が鳴った。桑久保が、自分が出ると目くばせする。
受話器を上げると、佐藤の声が聞こえてきた。離れているカンジのところまで十分聞こえる音量で、かなり興奮して大声になっているのがわかる。
『店は休業にする。予約のお客さんに連絡するから番号送ってくれるか。帰ったら説明するけど、ちょっと大変なことになった』
「わかりました、送ります。何があったんですか」
『店長が逮捕された』
カンジも高峰も、同時に声をあげてしまった。
『また後で話す、いったん切ります』
佐藤が電話を切る。桑久保はさっそく予約帳の写真を佐藤に送っていた。
「ど、どういうこと……?」
カンジのつぶやきは、全員の気持ちを代弁していた。
佐藤はそれから二十分もしないうちに帰ってきた。もっとも、カンジにとってはその20分がとてつもなく長かったのだが。
勢いよくドアが開いて、息を切らした佐藤がかけ込んできた。
「副店長!」
みんな口々に叫んでかけよるのを、佐藤はどうどうとなだめる。
「はぁ疲れた……。ちょっと座らしてくれ。あと、水もろていいかな」
佐藤は席に着くと水を一気にあおった。おかわりを注ぐと、それも半分ほど飲んでしまう。
「あー、生き返った……。ほんまに、えらいことになった……」
ひと心地ついてから、佐藤は話し始めた。
「被害届を出しに行って、警察の人に話を聞いてもらうことになったんやけど、店長がもうすごい勢いで喋ってさ。堀くんと昨日もめたとか、慰謝料払って言いがかりつけられた、普段から金にだらしないとか、もう言いたい放題」
なんというか、非常に細川らしい。相手が反論できない状況で一方的にやるのが細川らしい。
「僕が口をはさむ隙間もないくらいで、ただただ見てたんやけど、そしたらヒートアップした店長の手が鞄にぶつかって、中身が散らばってな」
身振り手振りを交えて熱弁していたのだろう。
「なんとその中に、どう見てもお金が入ってそうな封筒があったんや」
カンジは、ゴクリと喉をならす。
佐藤もまた水に手を伸ばし、残りを飲み干した。
「店長、ものすごいスピードでその封筒を鞄にしまってさ。でも警察の人も僕もその封筒見てるし、どう見てもお金っぽいし、店長不自然やし、なんかめっちゃ変な空気流れて……」
なんか、その空気わかる。
「二秒後くらいに、警察の人、今の封筒なんですかって。そら聞くわな」
うん。ですよね。
「そこから絶対に見せたくない店長と絶対に見たい警察のバトルが始まって、僕も離席できる雰囲気じゃないし、どんどん開店時刻は近づいてくるしで焦る焦る」
店長怪しい、怪しすぎる。
「で、とうとう店長がブツブツいいながら封筒を出して、確認したら201,551円。なくなった金額と完全一致や」
わっと歓声があがる。
「それって、店長が真犯人ってことですよね⁉︎」
堀がそんなことするかなと最後まで疑っていた高峰はかなり嬉しそうだ。
「店長は、そんなはずないって認めてなかったけどな」
「でも変ですよね」
カンジが疑問を口にする。
「なんでそんな証拠をもったまま警察に行ったんですかね」
「あ〜店長、『ここにあるはずない、何かの間違いや』ってブツブツ言ってたからな。自分では持ってないつもりやったんやろな」
店長が自分で鞄に入れ、それをうっかり忘れていたとは考えづらい。だとすれば、誰かが店長の鞄にいれた?
店長は「お金がここにあるはずない」と言っていた。それは裏を返せば、金庫から消えたお金の行方を知っていたのではないか。
それに店長は初めから堀が犯人だと決めつけていた。いや、店長が堀を犯人に仕立てたのだとしたら。
「店長が、お金を堀さんの鞄に入れた。でもそれに気づいた堀さんが、店長の鞄に入れ返したってこと?」
そう考えれば全てのつじつまが合うのではないか。
高峰が椅子からとびあがる。
「堀が店長をはめ返したってこと⁉︎ やるやん堀!」
桑久保と佐藤はしばらく天井を睨んでいたが、やがて頷いた。
「筋は通るな」
「堀君との揉め事を利用して犯人にしようとしたけど、失敗したと……」
佐藤が深いため息をついてそのまま机に突っ伏してしまった。
「桑久保、堀に連絡したってよ。店長捕まったよって」
「せやな」
佐藤が深すぎるため息からやっと復活し、顔を上げる。
「とりあえず本部に連絡やなぁ。はー、どこから説明しよう」
本当に、今日はいろんなことがあった。久しぶりにバイトに来たと思ったら、店では事件が起きていて、濡れ衣を着せられそうになって、最終的には細川が犯人で。
一週間前には見えなかったことがたくさん見えた。細川の理不尽も、なすすべなく祈るみんなも、贄みたいに差し出される自分も。
子安町の中でも外でも、自分ではどうしようもないものに出会したとき、人がやることは一緒なんやと思った。
贄を捧げて、祈る。
でもここには、神様はいてない。誰が願いを聞くのだろう。捧げた贄は誰が食べるのだろう。
外は確かに自由だった。でも、でも、同じくらい、何かの犠牲の上に成り立っている。
だったら僕は、子安町がいい。神様がいて、みんなの祈りを受け止めてくれる場所がいい。
僕は、子安町を選ぶよ、シアン。
「あの、副店長、ちょっといいですか」
「うん、どうした?」
「こんなときに申し訳ないんですが、僕ーー」
うわっ、寒っ。さゆりが異動になってから三ヶ月が経ち、空気はすっかり冷たくなった。
三ヶ月たってますます少食になったシアンは、それでも健康そうだ。少しずつ神に近づいているんだろう。
でもひとつ安心したのは神になったからと言ってシアンが消えるわけではないということ。シアンはシアンという人格を保ったまま子安神を引き継ぐことになるらしい。
そうなると子安町を離れられなくなるので、カンジたちのモラトリアムは長くともそれまで。いよいよタイムリミットを実感してきた。
おっと、もうバイトに出かける時間や。カンジは出勤の準備を済ませ、玄関ドアに手をかけた。
「じゃぁ行ってきます」
「うん。気をつけてね」
見送りに玄関まできてくれたシアンに声をかける。
「あ、れ? 鍵の故障かな」
ドアノブを回そうとしたが、何かがひっかかっているのか上手く回らない。
「えっ、具合わるい?」
シアンがドアノブを回してみると、すんなり開いた。
「あれ、普通に開いたな。なんか噛んでたんかも。ありがとうシアン」
カンジは玄関から足を踏み出した。モラトリアムはもうすぐ終わる。逃げるわけにはいかないのだ。全ての現実から。
店に着くと、桑久保がすでに出勤していた。
「守田君……。今日も来たんか。大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ」
桑久保が心配しているのは、新しい店長とカンジの関係のことだ。
さゆりが東京へ行ったあとやってきたのは、大阪の別店でてんちょうをしていた細川真という男だった。
細川はさゆりから引き継ぎを受け、従業員のこともある程度教えてもらっていた。そして、カンジが子安町出身だということをネタにして、かつての堀と同じような絡み方をしたのである。
カンジは堀の時のように真摯に対応したのだが、細川は恥をかかされたと思たようだ。それから執拗にカンジにあたってくるのだ。
カンジが細川の悪い冗談を拒絶した時、細川の顔が一瞬ものすごい角度につり上がり、そのあと気味の悪い猫なで声を出した。
「ごめんなぁ守田君。俺はそんな上品な育ちじゃなくてさぁ。守田君はええ家で育ってええ物食べてるからそんな体型なんやろなぁ」
明白な悪意だった。
店長、こんな言い方せんでもいいのに……。でも確かに僕も、みんなの前で反論するべきじゃなかったかも。まだ人間関係へたくそやからな。反省反省。
カンジは、あえて軽く考えた。まだ細川との関係はやり直せると。
次のバイトで、カンジは立っているだけで怒鳴られた。
「おい守田! お前そこは店の動線や! ボーッと立つな! こういうのはなぁ、結局気遣いとか優しさの問題や。まわりのみんなが動きやすいようにしようって考えたら、そんな所にボーッとたつなんてありえへんはずやけどな」
別に、ぼうっと立っていたわけではなかった。
魚を運んでいる途中に水滴で手が滑り、持ち直していたただけなのだが、細川にはぼうっとしているように見えたのかもしれない。
確かにここは動線だし、もう少し我慢して別の場所で持ち直すべきだったのかも。反省反省。
次のバイトで、カンジはエビの殻むきがなってないと怒鳴られた。
「おいこのエビやったん誰や! 守田お前か。はぁー、こんな殻だらけのエビお客さんに出すんか。お前の仕事やろ、ズルせんとちゃんとやれ。責任感ないんか」
新しい小エビはあんまりむくと身がボロボロになってしまうからほどほどにと教えられたのだが、細川店長は綺麗にむいてしまう方針みたいだ。確認せんかって悪かったな、反省。
その次も、そのまた次も、カンジは細川に怒鳴られた。
怒鳴られるのは嫌だが、確かに自分にも悪い点はあったなと反省して、改善していけば成長もできるし、細川にも認めてもらえるだろう。
ここでバイトを始めてから一年弱、高峰やさゆりから成長が速いとほめられていたし、みんなとも上手くやれていた。
カンジにはちょっと自信もついていたし、細川に認めさせたいという意地もあった。
注意されたところをちゃんと直して、まわり人のことを考えて動けば、良くなっていくはず。
カンジはそう思って、この三ヶ月弱、弱音を吐くことなく頑張ってきた。
頑張ってきた、はずなのだが、最近ミスが増えてきた。
おかしいな、気をつけているはずなのに。どうしてうまくできないんだろう。しかもミスを気にし過ぎて、周りにも気を配れていない。「おい守田、自分のことだけ考えんな」と、何回言われたかわからない。
今日こそちゃんとしなければ。
そう思うとドキドキしてきた。プレッシャーが強い時は、ショートコントだと思えばいいとネットで見たことがある。面接の前に「ショートコント、面接」と唱えれば緊張がとれると。
カンジは心のなかでショートコント、バイトと唱えてキッチンへ向かった。足は、すこし震えていた。
なんだかちょっと、自分の体じゃない感じがする。感覚が遠い。
カンジは高峰からマルハギを渡され、皮と苦玉の処理を頼まれた。多分返事をしたと思うのだが、自分の声がよく聞こえなかった。
ショートコント、ショートコント、ショートコント。これはショートコント。だから落ち着いて、丁寧に一匹ずつやればミスしないはず。震えるな、震えるな。
処理が終わったときには汗びっしょりになっていた。処理済みの冷蔵庫に入れると、どっと疲れがきた。
しばらく別の作業をしていると、冷蔵庫を開けた細川が威嚇するような声を出した。
「おい、誰や!」
キッチンの空気が凍りつく。
「このマルハギやったん誰や」
カンジは頭から全ての血がなくなっていくのを感じた。咄嗟には声が出ず、ゆっくりと挙手する。
細川は冷蔵庫から一匹取り出し、カンジの目の前につきつける。そのマルハギには、腹に切れ目が入っていなかった。
「苦玉取ってへんやんけ。お客さんにどんな料理出すつもりや。店潰したいんか」
あんなに注意してたのに、こんな基本的なミスをしてたなんて。カンジは愕然とした。
凍りついたキッチンに、細川のため息が響く。
「この三ヶ月お前ずっとこの調子でさ、反省する気ないやん。ちょっとはまわりに気遣おうとか、お客さんにちゃんとしたもん出そうとか、そういう気持ちないん」
「す、すみません。ちゃんとしようって、気をつけてたんですけど」
なんとか声をしぼりだす。この三ヶ月は、反省して、改善しようとして、やっぱりうまくいかない、の連続だった。それでもカンジなりに頑張っていたのだ。その気持ちや努力ごと否定されると辛い。
「いやお前、さすがに騙されへんぞ。そんな口だけで。お前の行動見てたらわかるわ。まわりもお客さんのことも見てない。ほんで口だけの反省って、人間として最低や」
「そんな、騙すとかじゃ……」
「ほなわざとじゃなくてこれか。もっと救いようないわ」
何回も注意されたのに直せなかった。わざとじゃない。でも、それでも迷惑をかけてしまうのには変わりない。全力で頑張ってこれやったら、僕は、僕は、どうしたらいい?
体と魂が切り離されたみたいになって、その後のことは薄ぼんやりして、気づいたら家に帰っていた。
ほっとするものの、明日もまたバイトやとおもうと怖くなってきた。また自分は失敗してしまう。
細川の言葉が頭の中で追いかけてくる。こういうのは結局気遣いとか優しさの問題。お前には責任感ないんか。おい守田、自分のことだけ考えんな。
どうしよう、僕が自分勝手な人間やから……。
情けなくて泣きそうになるがなんとかこらえた。玄関で突っ立っていてもしょうがない。カンジは小さくただいまというと靴を脱いだ。
あれ、何これ。
足元に、朝にはなかったはずの缶が置いてある。黒いキャップの、ホームセンターでよくみる缶だ。
あっ、シアン。僕が朝、鍵の調子が悪いって言ったから、油さしてくれたんや。
気づくと同時に、自分に対する嫌悪感がどっと押し寄せた。
ぼくが言ったことやのに、今の今まですっかり忘れてた。バイトのことで頭がいっぱいいっぱいで、周りのこと全然見えてない。だからあかんのや。こういう所を、店長は言うてるんや。
こらえたと思った涙がまたじわりと滲んでくる。自分の嫌なところも、ちゃんと見なあかん。カンジは鼻をすすって、なんでもない顔をして部屋に入った。
多分、いつも通りにできたと思う。シアンも何も言ってこなかったし、変なところはなかったはずだ。今日は眠って、明日また頑張れる、うん。
翌朝、何事もなく目覚めた自分にホッとする。シャツにアイロンをかけて袖を通す。寒くなってからはアイロンかけたてのホカホカシャツが気持ち良くてすっかりお気に入りだ。
まちがっても遅刻はしないように、時計ばかり見て午前中を過ごした。
そして出発時刻。いってきますと声をかけて、玄関のドアに手をかけた。
あれ? ドアノブが、やっぱり動かない。そしていつのまにかシアンが後ろに立っている。
「シアン、ドア開けてみてくれへん?」
「カンジ君、バイトは休んだ方がええんちゃう」
「いやいや、玄関開かへんから休みますなんか聞いたことないわ」
シアンが動こうとしないのでもう一度ドアノブを回してみるが、やっぱり開けられない。カンジは焦っているのに、やけに落ち着いたシアン。もしかして。
「シアン、お前、ドアになんかした?」
「カンジ君、鍵は壊れてないし、ドアは普通に開くよ」
「いや、開かんから困ってんねん」
ドアは天の岩戸のようにぴくりとも動かない。シアンはだまって電話をかけ始めた。修理業者にかけてくれているのだろうか。
「もしもし、僕は守田カンジの同居人の守村シアンと申します。はい、いつもお世話になってます。あの、守田なんですが、かなり具合が悪いみたいで、最低でも一週間はお休みすると思います。ーーええはい。すみませんがよろしくお願いします」
シアンが電話を切る。え、今、僕のバイト先に電話して勝手に休みの連絡入れた? なんで。シアンがバイトに行くの妨害してる?
「カンジ君。少なくとも一週間はお休みしたから。もう今日はバイト行かんくていいよ」
「いやいや、勝手に何してーー」
「カンジ君」
シアンが、カンジの声を遮ってドアを指差した。
「鍵は壊れてないし、ドアは普通に開くよ」
カンジはそろりとドアノブを回す。なんの抵抗もなく、ドアは開いた。
開いた……。
本当は気づいていた。今日はバイトに行かなくていいと言われたとき、心がすうっと軽くなった。ドアが開いてもバイトに行かなくていい。そう理解した途端、ドアが開いた。
おかしくなっていたのは、ドアでも鍵でもなく、カンジの方だ。
僕は現実と向き合われへんかったんや。カンジは何か大きなものに敗北した気がして、その場に崩れ落ちた。
「シアン……、僕、ダメやぁ。僕、何、してるんやろう。自分のことばっかりで、何もできてないのに、こんなんなって」
カンジはしゃくりあげながら、自分のダメなところを列挙していく。
あんなところもダメ、こんなところもダメ。仕事の仕方も、立つ位置さえもダメ。自分勝手でダメ。他人を慮れなくてダメ。結局のところ、優しさが足りてなくてダメ。こんなん子安町のことを考える以前の問題や。しかも、ちょっと自分ではできてると思ってたから痛すぎる。思い上がってた自分を殴りたいーー。
こんな自分は嫌だ。誰かの役に立ちたい。喜んでもらいたい。でも、こんなダメなやつがどうやって?
「シアン……、た、たべて」
カンジはすがるような目でシアンを見た。シアンは玄関で座り込むカンジの横にゆっくりとしゃがんだ。カンジの髪を耳にかけ、とろりと言葉を流し込んだ。
「おいしそうなカンジ君。食べてあげるね」
うっとりとしたシアンの声を聞いて、カンジはやっと息が吸えた気がした。
へたりこんだカンジを担ぎあげ、部屋の中まで運ぶ。やわらかいラグの上に優しく転がして、シアンはカンジの首筋に鼻をうずめた。
「かわいい、かわいいカンジ君。健気で、最高の伴侶」
匂いをかぐ合間に、熱い吐息と一緒に恥ずかしいくらいの愛を囁いてくる。シアンの低い声が鼓膜を振るわせるたび、カンジの体はビクビクと跳ねた。
「食べてやって、かわいすぎる。僕のカンジ君が、食べてって。嬉しくて頭おかしくなりそう、はぁっ」
ああ、シアンが喜んでくれてる。肩を押さえる手も、耳にかかる息も全部熱くて、シアンが興奮しているのがわかる。
「好き、あいしてる。面白いところも、かわいいって言ったら恥ずかしがるところも、頑張り屋なところも、子安のみんなのために考えすぎなくらい考えてるところも。自分よりひとを優先してしまう優しいところも、全部好き」
「う、うわああん」
こらえきれずカンジは泣き出した。自分はそんなんじゃない。シアンの期待には応えられない。
「ち、ちがうっ! 僕はっ、そ、そんな人間じゃない。自分勝手で、いまもシアンに迷惑かけてっ」
カンジの目からポロポロと涙がこぼれる。シアンは、その涙を優しく舐めとった。
喉が大きく動いて、涙が、シアンの体の中に落ちていく。
「カンジ君、見て」
言われなくても、カンジはその様子を凝視していた。
「僕、迷惑そう?」
シアンの表情は恍惚として、今カンジとこうして「食事」ができることを心底喜んでいるようだった。
「よく見て」
シアンは見せつけるようにカンジの腕を持ち上げ、ガブリと歯を立てた。ゆるやかな歯形を残して離れていく。
「大好き。あはは、カンジ君も嬉しそう。かわいい。もっと、もっとちょうだい」
シアンに求められて、急速にカンジの心が満たされていく。棘に刺されて穴だらけになっていた心が埋まっていく。
気づけば涙は止まって、カンジの体は安心しきった赤ちゃんのようにふにゃふにゃになっていた。
「かわいい、好き。つきたてのお餅みたい。とろとろで、でも奥に歯ごたえもちゃんとある。優しくて、でも芯のあるカンジ君と一緒やね」
おでこ、目元、頬、首筋、肩、腕、指先と、順番にキスを落としていく。シアンのキスはどこにされても刺激が強すぎる。そこから沸騰したみたいになるし、力は全く入らなくなるし、幸せな気持ちが無限に積み重なって頭がバカになりそう。
「大丈夫、カンジ君は賢いし、カンジ君が幸せなんやったら僕も嬉しいな」
また指先にキス。唇で食んで、カリ、と歯があたる。
ダメやってシアン、おかしくなるから。
「はぁっ、かわいい。賢くて優しくてかわいいカンジ君。もうとろとろやね。ねえ教えて。僕のカンジ君を、こんなに傷つけたのは誰?」
カンジにはもう、何かを隠しだてするみたいなことは思いつきもしなかった。新しい店長とのやりとりを、シアンに問われるがまま答えていた。
2−9
*
「落ち着いた?」
シアンがカンジにお茶を渡してくれる。
「うん、だいぶ」
「よかった。僕もだいぶ暴走した自覚がある。カンジ君に食べてって言われた時と、細川の話聞いた時と」
カンジは、暴走したシアンを思い出す。確かに、止まれないという感じがすごかった。いや、全体的にすごかった。シアンが全力でカンジの存在を認めてくれたから、カンジは傷を癒すことができた。
「僕、だいぶ考え方がおかしくなってたなって、今やったら分かる」
細川の、ひとつのミスを捉えてその人の人格に問題があるかのように責め立てる手法。ミスは確かにしたけど、だから優しさが足りてないとか、そんなんはおかしい。
「自分の悪いところと向き合おうとするのはカンジ君の誠実さやけど、細川の言葉には向き合わんでいい。だって、ただ攻撃したいためにこじつけてるんやもん」
「……うん」
まだちょっと、心のどこかに自分も悪かったからこうなったのではという思いがある。多分それは、今回負ってしまった心の深いところの傷なんだと思う。
傷に沿って、思考が流れてしまう。
「ほんまに、シアンがいてくれてよかった」
「カンジ君、忘れんといてね。僕もカンジ君がいてくれてよかったって思ってるってこと」
「え?」
「僕が今いろんなことを受け入れて普通でいられるのは、カンジ君が僕を受け入れてくれたからなんやで」
僕なりに、シアンの助けになってたんか。
「なんかこういうのって、いいな」
カンジは、シアンの言葉を素直に受け取った。
*
一週間後、カンジは玄関のドアを開けた。
「じゃあ、行ってきます」
澱みなく、一歩を踏み出せた。よし、大丈夫そう。
「無理したらあかんからね」
「うん。無理したらあかんな」
今回のことで、限界を超えて頑張るのは危ないとわかった。細川の言葉を真に受ける必要がないこともわかった。ちょっとパワーアップしたのだ。
カンジの返答に少し安心したのか、シアンはいってらっしゃいと送り出してくれた。
店に入ると、中は騒然としていた。異様な空気が漂っていて、バイトのスタッフたちは壁際に集まっているようだ。
桑久保と高峰を見つけ、そばに寄る。カンジに気づいた高峰が声をかけてくれた。
「守田君! 体調は大丈夫なん、絶対ストレスが原因やんね?」
「まぁ、あの……はい、多分」
ちょっとカッコ悪いなと思っているので、歯切れの悪い返事になってしまった。
「あの、それよりなんかあったんですか?」
「実は、店の金がなくなった。多分、犯人は堀」
「桑久保! まだ決まったわけじゃないやん!」
「でも昨日あんなことがあっての今日やで。堀以外考えられん」
桑久保が詳しい説明をしてくれる。
どうやら、カンジが休んでいた一週間、堀が店長から目をつけられ、新たないじめのターゲットになっていたらしい。
「店長、堀にネチネチ嫌味を言ってたんやけど、堀はそういうのスルーするんが得意やから聞き流してたんや。でもそれがさらに店長の神経を逆撫でしたみたいで、嫌味がどんどんエスカレートしていってん」
細川は、自分の攻撃が思ったように相手を傷つけられていないのが癪だったのだろう。
「それでついに、堀の音楽のことディスりだして……。堀は、音楽のことバカにされんのは無視できへんから」
堀の弱点をついたと思って気持ちよくなったのだろう。細川はそれから音楽を引き合いに出しては堀を貶した。
「それでとうとう昨日、堀が爆発してもうたんや。店長とガチ喧嘩して、絶対慰謝料払わせるからなってセリフを残して途中で帰ってん。すごかったで」
横で高峰が大きく頷いている。
「それで今日きたら店の金がなくなってた。一円残らずな。店を荒らされてる様子もないし、強盗に入られたっぽくない。これは……堀がやってもたんちゃうかなって」
「全然連絡つかへんし、もー何やってんのやろ」
金庫の方を見ると、細川と副店長の佐藤が話し合っている。カンジは副店長とあまり接点がなかったが、さゆりと一緒にみんなから慕われていた。
細川も佐藤には一目置いているようで、丁寧な態度で接しているのがわかった。
「じゃあ店長、先に外で待ってますね」
「おう、俺もバイトの子らに指示だけだしたら行くわ」
話し合いが終わり、細川がこちらにやってくる。カンジに気づくと、一変して攻撃的な笑みを浮かべた。来る、と身構える。
「おお守田、守田が休みの間みんなすごい大変やったで。忙しいときに急に一週間も抜けるから、堀もストレス溜まったんやろなぁ。それで、守田はゆっくりできたか?」
ひと息で何個嫌味をいえるかギネス記録に挑戦してるんか、と思った。すごい。休む前やったらまともにくらってた。シアンすご。
「ご迷惑をおかけしました」
「でたでた! また口だけのやつ」
事件のせいでイライラしている細川の口調はどんどん激しさを増していく。
「そういえば守田、堀と仲良かったよなぁ。タイミングもタイミングやし、二人で結託してやったんちゃうんか」
さすがにギョッとしてしまった。まさか、休んでいたのに横領の疑いをかけられるとは。
「ちょっと荷物みせろ」
「えっ」
「見せられへん理由でもあるんか」
高圧的に、叫ぶような音量で捲し立てられる。
この人、傷つけられたらなんでもいいんや。カンジはこんな時だというのに妙に納得してしまった。誰でもいいし、なんでもいい。でも、やりやすそうな人から狙う。
堀にターゲットを移して、堀がいなくなったらまたカンジ。休んだことを責めて、引け目を感じさせて、あまつさえ堀のストレスさえカンジのせいにする。
犯人扱いされることがカンジを傷つけると理解して、傷つけるためにやっている。獲物を追い込んで楽しむような、残虐な遊び。
カンジは冷静だった。細川に周りを見ろと怒鳴られても視野は狭まるばかりだったのに、今は周りもよく見えた。
みんなうつむいて、早くこの時間が過ぎて欲しいと祈っている。この災害が自分に降りかかりませんようにと祈っている。
その祈りの中心で、一人犠牲になっているカンジはまさしく贄だった。
子安町の外にも贄はあるんや。
その気付きは、まるでパズルの最後のピースのようにカンジの心にパチリとはまった。
なんか、わかった。僕の進むべき道。
「店長、まだかかります?」
そこへ、先に外へ出ていた佐藤が戻ってきた。細川が小さく舌打ちする。
「お前ら、俺と副店長は警察に行ってくるから、開店準備ちゃんとしとけよ」
店長が出ていくと、店の空気が動き出す。のろのろと、それぞれが料理の支度を始めた。
「ほんまに堀なんかな」
高峰はずっと堀が犯人だとは思えないようだった。
「堀はいろいろ小狡いところはあるけど、ほんまに犯罪までやっちゃう奴なんかな」
「でも音楽のためやったら見境なかったし。一回CD出すのにヤバめのところで金借りてたことあったやん」
桑久保が見境のなかった過去話を持ち出すと、高峰は頭を抱えた。
「あった……あったね」
「あの、今回無くなったお金っていくらくらいなんですか?」
カンジが尋ねる。
「201,551円」
桑久保が即答する。
「え、桑久保すご。なんでそんなん覚えてんの」
「覚えやすい数字やったから」
高峰とカンジが首をひねる。どう考えても中途半端な数字だと思うのだが。
「まず下三桁が551で『蓬莱』やろ。そしたら頭の201は『におい』でめっちゃ覚えやすいやん」
「すご……すごいけど無駄」
「受験のときに、何でも語呂合わせする癖がついたからな」
「おお、さすが歯学部生」
自然と笑いが漏れる。さゆりがいた頃の帰魚来は、こんな風にくだらない話で盛り上がってずっと楽しかった。
くだらない話で調子を取り戻し、カンジたちは開店準備をすすめた。しかし、開店時刻が迫って来たというのに、細川と佐藤は帰ってこない。
「どうする、店長たちおらんけど店開ける?」
高峰が不安そうに尋ねる。
「釣り銭もないしな」
桑久保の指摘通り、今この店には一円もない。その時、店の電話が鳴った。桑久保が、自分が出ると目くばせする。
受話器を上げると、佐藤の声が聞こえてきた。離れているカンジのところまで十分聞こえる音量で、かなり興奮して大声になっているのがわかる。
『店は休業にする。予約のお客さんに連絡するから番号送ってくれるか。帰ったら説明するけど、ちょっと大変なことになった』
「わかりました、送ります。何があったんですか」
『店長が逮捕された』
カンジも高峰も、同時に声をあげてしまった。
『また後で話す、いったん切ります』
佐藤が電話を切る。桑久保はさっそく予約帳の写真を佐藤に送っていた。
「ど、どういうこと……?」
カンジのつぶやきは、全員の気持ちを代弁していた。
佐藤はそれから二十分もしないうちに帰ってきた。もっとも、カンジにとってはその20分がとてつもなく長かったのだが。
勢いよくドアが開いて、息を切らした佐藤がかけ込んできた。
「副店長!」
みんな口々に叫んでかけよるのを、佐藤はどうどうとなだめる。
「はぁ疲れた……。ちょっと座らしてくれ。あと、水もろていいかな」
佐藤は席に着くと水を一気にあおった。おかわりを注ぐと、それも半分ほど飲んでしまう。
「あー、生き返った……。ほんまに、えらいことになった……」
ひと心地ついてから、佐藤は話し始めた。
「被害届を出しに行って、警察の人に話を聞いてもらうことになったんやけど、店長がもうすごい勢いで喋ってさ。堀くんと昨日もめたとか、慰謝料払って言いがかりつけられた、普段から金にだらしないとか、もう言いたい放題」
なんというか、非常に細川らしい。相手が反論できない状況で一方的にやるのが細川らしい。
「僕が口をはさむ隙間もないくらいで、ただただ見てたんやけど、そしたらヒートアップした店長の手が鞄にぶつかって、中身が散らばってな」
身振り手振りを交えて熱弁していたのだろう。
「なんとその中に、どう見てもお金が入ってそうな封筒があったんや」
カンジは、ゴクリと喉をならす。
佐藤もまた水に手を伸ばし、残りを飲み干した。
「店長、ものすごいスピードでその封筒を鞄にしまってさ。でも警察の人も僕もその封筒見てるし、どう見てもお金っぽいし、店長不自然やし、なんかめっちゃ変な空気流れて……」
なんか、その空気わかる。
「二秒後くらいに、警察の人、今の封筒なんですかって。そら聞くわな」
うん。ですよね。
「そこから絶対に見せたくない店長と絶対に見たい警察のバトルが始まって、僕も離席できる雰囲気じゃないし、どんどん開店時刻は近づいてくるしで焦る焦る」
店長怪しい、怪しすぎる。
「で、とうとう店長がブツブツいいながら封筒を出して、確認したら201,551円。なくなった金額と完全一致や」
わっと歓声があがる。
「それって、店長が真犯人ってことですよね⁉︎」
堀がそんなことするかなと最後まで疑っていた高峰はかなり嬉しそうだ。
「店長は、そんなはずないって認めてなかったけどな」
「でも変ですよね」
カンジが疑問を口にする。
「なんでそんな証拠をもったまま警察に行ったんですかね」
「あ〜店長、『ここにあるはずない、何かの間違いや』ってブツブツ言ってたからな。自分では持ってないつもりやったんやろな」
店長が自分で鞄に入れ、それをうっかり忘れていたとは考えづらい。だとすれば、誰かが店長の鞄にいれた?
店長は「お金がここにあるはずない」と言っていた。それは裏を返せば、金庫から消えたお金の行方を知っていたのではないか。
それに店長は初めから堀が犯人だと決めつけていた。いや、店長が堀を犯人に仕立てたのだとしたら。
「店長が、お金を堀さんの鞄に入れた。でもそれに気づいた堀さんが、店長の鞄に入れ返したってこと?」
そう考えれば全てのつじつまが合うのではないか。
高峰が椅子からとびあがる。
「堀が店長をはめ返したってこと⁉︎ やるやん堀!」
桑久保と佐藤はしばらく天井を睨んでいたが、やがて頷いた。
「筋は通るな」
「堀君との揉め事を利用して犯人にしようとしたけど、失敗したと……」
佐藤が深いため息をついてそのまま机に突っ伏してしまった。
「桑久保、堀に連絡したってよ。店長捕まったよって」
「せやな」
佐藤が深すぎるため息からやっと復活し、顔を上げる。
「とりあえず本部に連絡やなぁ。はー、どこから説明しよう」
本当に、今日はいろんなことがあった。久しぶりにバイトに来たと思ったら、店では事件が起きていて、濡れ衣を着せられそうになって、最終的には細川が犯人で。
一週間前には見えなかったことがたくさん見えた。細川の理不尽も、なすすべなく祈るみんなも、贄みたいに差し出される自分も。
子安町の中でも外でも、自分ではどうしようもないものに出会したとき、人がやることは一緒なんやと思った。
贄を捧げて、祈る。
でもここには、神様はいてない。誰が願いを聞くのだろう。捧げた贄は誰が食べるのだろう。
外は確かに自由だった。でも、でも、同じくらい、何かの犠牲の上に成り立っている。
だったら僕は、子安町がいい。神様がいて、みんなの祈りを受け止めてくれる場所がいい。
僕は、子安町を選ぶよ、シアン。
「あの、副店長、ちょっといいですか」
「うん、どうした?」
「こんなときに申し訳ないんですが、僕ーー」
