【名探偵カンジ】
それは、夢とうつつのあいだ。
心地よいベッドに身を投げ出して、自由のきかない体を楽しんでいる。まどろみに支配されるのは気持ちがいい。
部屋のドアが静かにひらく。カンジは、このあと何が起こるのか知っている。侵入者はカンジの眠るベッドに近づいてきて、鼻先をうずめ思いきり息を吸う。吐き出す息は熱く、恍惚の色を含んでいる。
この日も侵入者はベッドのそばへ来て、いつも通りカンジの首元に鼻を寄せる。
ーーシアン、それ、楽しい? シアンを満たしてる?
湿った息が肌にかかる。その熱さがシアンの満足感を表しているようで、カンジはゾクリとした。
ーーあれ、今日は帰らへんの?
いつもだったら、匂いをかいだらすぐに部屋を出ていくのに、今日はなかなかそばを離れようとしない。もう一度、シアンの息が肌にかかる。
ーーなんか、やわらかいものが首にあたってる……。
柔らかく、温かく、すこし湿った感触。そしてその柔らかい感触が離れ、今度はおどろく程の熱が。
ーーアッ、熱い。しかも、なんか痛ッ、これ……噛まれてる⁉︎
「うわぁッ! あれ……?」
衝撃で飛び起きたカンジが見たものは、誰もいない部屋。
「ゆ、夢?」
カンジはベッドの上でしばし呆然とした。
*
一日中、ため息が止まらん。
シアンに食べられる夢を見た。なぜあんな夢をみたのか。いや、夢を見ること自体は別にいい。シアンがよなよな匂いをかぎにくるせいであんな夢を見たに決まっている。
問題は、噛まれていると理解したときに自分の感情だ。
噛まれていると気づいた瞬間、衝撃で飛び起きた。
ーーあんな、きもちいいと思うなんて。
あの衝撃は、全身を貫いた喜びが原因だ。
な、なにを喜んでるんや、僕は。カンジの顔がほてる。
朝からずっとあの夢がリフレインするせいで立て続けに失敗している。シアンにも心配されたし、バイト先でも心配された。
そしてシアンがめちゃくちゃしつこく聞いてくる。様子がおかしい、なにかあったんじゃないかって。
自分でも様子はおかしいやろなと思う。朝は卵を割って、殻をボウルに入れて中身をゴミに入れたし。もったいないことしてほんまにごめんなさい。
「ねぇ、カンジ君、ほんまに大丈夫? 具合わるい?」
大丈夫大丈夫。具合が悪いとかじゃない。
「絶対様子変やって、なんかあったんじゃない?」
はいもうこれ百回目。心配してもらっといてなんやけどもうええて。
だいたい様子が変なのはよなよな奇行に走っているシアンもやし、子安をでるときに何かあったのもシアンやし、それをずっと隠してるのもシアンやし。おまけにご飯の量も少なすぎやし。
あ、そうや。
カンジにひとつアイデアが浮かぶ。
お互いに知りたいことがあるんやったら、交換にしたらええんちゃう?
「カンジ君、僕には言いづらい?」
「いや、うーん」
この、シアンの奴め。こっちが隠しづらい聞き方をしてくる。でもこの際、この勢いに乗るか。
「……なぁシアン」
カンジが何かを打ち明けてくれそう、という気配を察知して、シアンが背筋を伸ばす。
「今月、お金余裕ある?」
「え、お金? まぁあるけど……。なんか欲しい物でもあるん?」
「ちょっとさ。な。あ、どんくらい余裕あるか見せてもらってもいい?」
「うん、いいよ」
カンジの止まらないため息の原因が金銭関係だとは思っていなかったのか、多少いぶかりながらも明細を見せてくれる。
「けっこうあるな。これやったら余裕。あのさ、ふたりで出掛けへん? 水族館とか」
「行きたい!」
シアンがすごい勢いで食いついてくる。が、一瞬で我に返って確認してきた。
「待って、なんか誤魔化そうとしてない?」
「出掛けたついでにさ、話きいてよ。ほんでさ、一個お願いも聞いて欲しいねん」
カンジがちょっとイタズラっぽく笑う。
「うん、わかった」
お願いの内容も確認せずに快諾するシアンをみて、カンジはすこし複雑な気持ちになるのであった。
*
水族館へ向かう電車の中で、カンジはこの半年間いかに自分がお上りさんだったかを実感していた。
自分がキョロキョロするのに必死で、全く状況を見ていなかった。すこし落ち着いてみると、まわりがよく見える。
何が見えるかというと、シアンがめちゃくちゃキャアキャア言われているのが見える。
子安町でもシアンは一軍で人気者だったが、ここまでではなかった。なんだかんだ、すでに知られた存在であったし、みんなも慣れていたのだろう。
しかし大阪はちがう。初めてシアンを見た人間がどのような反応をするのか、カンジは今日それを目の当たりにしていた。
「シアン、派遣先で苦労してない?」
今日はふたりでいるからみんなチラチラとシアンを見るだけで済んでいるが、派遣先でひとりとなるとたくさんの人が寄ってくるのではないだろうか。
多分、質問の意図はきちんと伝わったと思うのだが、シアンは小首をかしげただけだった。
「あ、次の駅やね」
「うん」
電車のアナウンス、親切やな。水族館へお越しの方は次の駅だと教えてくれる。
もうすぐ水族館につく。つまり、シアンとの話し合いの時が近づいている。
意識すると、じわりと全身から汗がふきでた。カンジは、手のひらの汗をこっそりズボンでぬぐった。
水族館は静かで、入り口の水槽がキラキラと輝いていた。丸いシルエットの魚が、ひょうきんな顔でカンジたちを出迎えてくれる。
「おお……おもったよりかわいい」
うっかり和んでしまった。ふだん、店で魚を捌いているが、泳ぐ魚を見る機会はない。
ふたり並んで水槽の前に立つと、うっすらと姿が映った。向かい合ってしゃべっている時には意識しないが、シアンの方がかなり背が高い。
多分、シアンが視線を合わせてくれているんだと思う。自然とカンジに気を遣ってくれるシアンだから。
順路を進むと、水族館はより暗く、より静かになっていった。
おでこの飛び出た魚を目で追いかけながら、ようやくカンジが口をひらく。
いまだって、カンジが口をひらくまで急かさずに待ってくれていたのだ。シアンというやつは。
「今日、話しよっていってたやんな」
「……ゆっくりでいいから」
「うん。話す。話すねんけどさ、一個お願いきいてほしいって言ったのも憶えてる?」
「もちろん」
シアンの回答にひとまず安心する。でも、ここからだ。
「僕も、隠しごとを話す。だから、シアンも話して欲しい。子安町を出るときになにがあったんか、僕に隠してること全部」
秘密の重さは、たぶん全く釣り合ってない。交換とはいえない。だから、お願い。
「それは、カンジ君の決断に余計な情報やから、知らん方がいいってーー」
「前もそういってたよな。でも僕は、ぜんぶ知りたい。だって考えれば考えるほど、大事なことっぽいから」
シアンはまだうんと言わない。
ふたりの前を、ゆうらりと黒い魚が横切る。大きな目が老人のような思慮深さを感じさせた。
「ところでシアンさ、最近痩せた?」
「いや、変わってないけど」
「そか。それって、おかしない? シアンの食べる量、どんどん減ってんの気づいてる?」
シアンの食事は、一緒に暮らし始めたときから少なかった。体の大きさに比しておかしいと思ったけど、見ないふりをしようとおもった。それからも少しずつ量が減っていったけど、何も言わなかった。
シアンが隠していることにつながっていると直感したから。
「それは……、外食もしてるし」
「そういうと思ったわ。今月、お金の余裕あるか聞いたとき、シアン明細見せてくれたよな。ぜんっぜんお金減ってないやん。外食なんかいつしてんねん」
カンジなりに、本気で知ろうと決めたのだ。子安町からでてきて、大阪で半年暮らした。初めて自由を経験して、初めて素の自分で人間関係を築いて、いろんなことを知った。
子安町との違いも、共通点も、肌で感じた。
店長は、初めて会うタイプの人だった。独身で自分の道を突き進んでいる彼女は、自由で優しくて強くて、この都市のいいところを詰め込んだみたいな人。
でも大阪もいいところばかりじゃない。子安町を性的な娯楽として消費する、暴力的な視点があった。
本当は自由なはずなのに、ストーカーのせいで自由に服を選ぶこともできない人がいた。
物事は一面じゃない。
だから、すごく難しい。
自分が贄として生きる意味はあるのか、子安町のありかたを肯定していいのか、正直まだ判断がつかない。
そして、判断のために必要なピースがまだそろっていない。
シアンの隠しごと。これは、必ず知る必要がある。
外食という言い訳を潰されたシアンの顔に焦りがみえる。カンジがここまでやるとは考えていなかったのだろう。
カンジは今まで、わきまえていた。シアンが踏み込んで欲しくないことは、踏み込まなかった。
贄と、神主の息子。どちらも子安町では特殊な立場で、子どもの頃から大人に囲まれて育った。子どものころか建前を使える彼らは、衝突を避けてきた。
でも今日は、ぶつかるんだ。
「あとさ、シアン。夜中に僕の部屋、来てるよな?」
追及の手は緩めない。カンジの直感が言っている。シアンの秘密は、カンジの判断に必要だと。シアンの秘密は、シアンだけの秘密じゃない。きっと、シアンとカンジの秘密だと。
でなければきっと、シアンはここまで隠さない。
びくりと、シアンの体が大きく震えた。カンジの部屋に忍びこんでいたことはバレていないと思っていたのだろう。
でも本当は、気づいて欲しかったんじゃないだろうか。でなければこんな、バレる危険が高いこと、するかな。
「シアン、僕はちゃんと知ったうえで考えたい」
シアンがゆっくりと両腕を上げた。降参の合図だ。
「やっぱりカンジ君はすごいなぁ」
張り詰めていた空気が、一気にゆるんだ。
「全部話す。どっか座ろ。あと、なんか飲み物も買お」
それは、夢とうつつのあいだ。
心地よいベッドに身を投げ出して、自由のきかない体を楽しんでいる。まどろみに支配されるのは気持ちがいい。
部屋のドアが静かにひらく。カンジは、このあと何が起こるのか知っている。侵入者はカンジの眠るベッドに近づいてきて、鼻先をうずめ思いきり息を吸う。吐き出す息は熱く、恍惚の色を含んでいる。
この日も侵入者はベッドのそばへ来て、いつも通りカンジの首元に鼻を寄せる。
ーーシアン、それ、楽しい? シアンを満たしてる?
湿った息が肌にかかる。その熱さがシアンの満足感を表しているようで、カンジはゾクリとした。
ーーあれ、今日は帰らへんの?
いつもだったら、匂いをかいだらすぐに部屋を出ていくのに、今日はなかなかそばを離れようとしない。もう一度、シアンの息が肌にかかる。
ーーなんか、やわらかいものが首にあたってる……。
柔らかく、温かく、すこし湿った感触。そしてその柔らかい感触が離れ、今度はおどろく程の熱が。
ーーアッ、熱い。しかも、なんか痛ッ、これ……噛まれてる⁉︎
「うわぁッ! あれ……?」
衝撃で飛び起きたカンジが見たものは、誰もいない部屋。
「ゆ、夢?」
カンジはベッドの上でしばし呆然とした。
*
一日中、ため息が止まらん。
シアンに食べられる夢を見た。なぜあんな夢をみたのか。いや、夢を見ること自体は別にいい。シアンがよなよな匂いをかぎにくるせいであんな夢を見たに決まっている。
問題は、噛まれていると理解したときに自分の感情だ。
噛まれていると気づいた瞬間、衝撃で飛び起きた。
ーーあんな、きもちいいと思うなんて。
あの衝撃は、全身を貫いた喜びが原因だ。
な、なにを喜んでるんや、僕は。カンジの顔がほてる。
朝からずっとあの夢がリフレインするせいで立て続けに失敗している。シアンにも心配されたし、バイト先でも心配された。
そしてシアンがめちゃくちゃしつこく聞いてくる。様子がおかしい、なにかあったんじゃないかって。
自分でも様子はおかしいやろなと思う。朝は卵を割って、殻をボウルに入れて中身をゴミに入れたし。もったいないことしてほんまにごめんなさい。
「ねぇ、カンジ君、ほんまに大丈夫? 具合わるい?」
大丈夫大丈夫。具合が悪いとかじゃない。
「絶対様子変やって、なんかあったんじゃない?」
はいもうこれ百回目。心配してもらっといてなんやけどもうええて。
だいたい様子が変なのはよなよな奇行に走っているシアンもやし、子安をでるときに何かあったのもシアンやし、それをずっと隠してるのもシアンやし。おまけにご飯の量も少なすぎやし。
あ、そうや。
カンジにひとつアイデアが浮かぶ。
お互いに知りたいことがあるんやったら、交換にしたらええんちゃう?
「カンジ君、僕には言いづらい?」
「いや、うーん」
この、シアンの奴め。こっちが隠しづらい聞き方をしてくる。でもこの際、この勢いに乗るか。
「……なぁシアン」
カンジが何かを打ち明けてくれそう、という気配を察知して、シアンが背筋を伸ばす。
「今月、お金余裕ある?」
「え、お金? まぁあるけど……。なんか欲しい物でもあるん?」
「ちょっとさ。な。あ、どんくらい余裕あるか見せてもらってもいい?」
「うん、いいよ」
カンジの止まらないため息の原因が金銭関係だとは思っていなかったのか、多少いぶかりながらも明細を見せてくれる。
「けっこうあるな。これやったら余裕。あのさ、ふたりで出掛けへん? 水族館とか」
「行きたい!」
シアンがすごい勢いで食いついてくる。が、一瞬で我に返って確認してきた。
「待って、なんか誤魔化そうとしてない?」
「出掛けたついでにさ、話きいてよ。ほんでさ、一個お願いも聞いて欲しいねん」
カンジがちょっとイタズラっぽく笑う。
「うん、わかった」
お願いの内容も確認せずに快諾するシアンをみて、カンジはすこし複雑な気持ちになるのであった。
*
水族館へ向かう電車の中で、カンジはこの半年間いかに自分がお上りさんだったかを実感していた。
自分がキョロキョロするのに必死で、全く状況を見ていなかった。すこし落ち着いてみると、まわりがよく見える。
何が見えるかというと、シアンがめちゃくちゃキャアキャア言われているのが見える。
子安町でもシアンは一軍で人気者だったが、ここまでではなかった。なんだかんだ、すでに知られた存在であったし、みんなも慣れていたのだろう。
しかし大阪はちがう。初めてシアンを見た人間がどのような反応をするのか、カンジは今日それを目の当たりにしていた。
「シアン、派遣先で苦労してない?」
今日はふたりでいるからみんなチラチラとシアンを見るだけで済んでいるが、派遣先でひとりとなるとたくさんの人が寄ってくるのではないだろうか。
多分、質問の意図はきちんと伝わったと思うのだが、シアンは小首をかしげただけだった。
「あ、次の駅やね」
「うん」
電車のアナウンス、親切やな。水族館へお越しの方は次の駅だと教えてくれる。
もうすぐ水族館につく。つまり、シアンとの話し合いの時が近づいている。
意識すると、じわりと全身から汗がふきでた。カンジは、手のひらの汗をこっそりズボンでぬぐった。
水族館は静かで、入り口の水槽がキラキラと輝いていた。丸いシルエットの魚が、ひょうきんな顔でカンジたちを出迎えてくれる。
「おお……おもったよりかわいい」
うっかり和んでしまった。ふだん、店で魚を捌いているが、泳ぐ魚を見る機会はない。
ふたり並んで水槽の前に立つと、うっすらと姿が映った。向かい合ってしゃべっている時には意識しないが、シアンの方がかなり背が高い。
多分、シアンが視線を合わせてくれているんだと思う。自然とカンジに気を遣ってくれるシアンだから。
順路を進むと、水族館はより暗く、より静かになっていった。
おでこの飛び出た魚を目で追いかけながら、ようやくカンジが口をひらく。
いまだって、カンジが口をひらくまで急かさずに待ってくれていたのだ。シアンというやつは。
「今日、話しよっていってたやんな」
「……ゆっくりでいいから」
「うん。話す。話すねんけどさ、一個お願いきいてほしいって言ったのも憶えてる?」
「もちろん」
シアンの回答にひとまず安心する。でも、ここからだ。
「僕も、隠しごとを話す。だから、シアンも話して欲しい。子安町を出るときになにがあったんか、僕に隠してること全部」
秘密の重さは、たぶん全く釣り合ってない。交換とはいえない。だから、お願い。
「それは、カンジ君の決断に余計な情報やから、知らん方がいいってーー」
「前もそういってたよな。でも僕は、ぜんぶ知りたい。だって考えれば考えるほど、大事なことっぽいから」
シアンはまだうんと言わない。
ふたりの前を、ゆうらりと黒い魚が横切る。大きな目が老人のような思慮深さを感じさせた。
「ところでシアンさ、最近痩せた?」
「いや、変わってないけど」
「そか。それって、おかしない? シアンの食べる量、どんどん減ってんの気づいてる?」
シアンの食事は、一緒に暮らし始めたときから少なかった。体の大きさに比しておかしいと思ったけど、見ないふりをしようとおもった。それからも少しずつ量が減っていったけど、何も言わなかった。
シアンが隠していることにつながっていると直感したから。
「それは……、外食もしてるし」
「そういうと思ったわ。今月、お金の余裕あるか聞いたとき、シアン明細見せてくれたよな。ぜんっぜんお金減ってないやん。外食なんかいつしてんねん」
カンジなりに、本気で知ろうと決めたのだ。子安町からでてきて、大阪で半年暮らした。初めて自由を経験して、初めて素の自分で人間関係を築いて、いろんなことを知った。
子安町との違いも、共通点も、肌で感じた。
店長は、初めて会うタイプの人だった。独身で自分の道を突き進んでいる彼女は、自由で優しくて強くて、この都市のいいところを詰め込んだみたいな人。
でも大阪もいいところばかりじゃない。子安町を性的な娯楽として消費する、暴力的な視点があった。
本当は自由なはずなのに、ストーカーのせいで自由に服を選ぶこともできない人がいた。
物事は一面じゃない。
だから、すごく難しい。
自分が贄として生きる意味はあるのか、子安町のありかたを肯定していいのか、正直まだ判断がつかない。
そして、判断のために必要なピースがまだそろっていない。
シアンの隠しごと。これは、必ず知る必要がある。
外食という言い訳を潰されたシアンの顔に焦りがみえる。カンジがここまでやるとは考えていなかったのだろう。
カンジは今まで、わきまえていた。シアンが踏み込んで欲しくないことは、踏み込まなかった。
贄と、神主の息子。どちらも子安町では特殊な立場で、子どもの頃から大人に囲まれて育った。子どものころか建前を使える彼らは、衝突を避けてきた。
でも今日は、ぶつかるんだ。
「あとさ、シアン。夜中に僕の部屋、来てるよな?」
追及の手は緩めない。カンジの直感が言っている。シアンの秘密は、カンジの判断に必要だと。シアンの秘密は、シアンだけの秘密じゃない。きっと、シアンとカンジの秘密だと。
でなければきっと、シアンはここまで隠さない。
びくりと、シアンの体が大きく震えた。カンジの部屋に忍びこんでいたことはバレていないと思っていたのだろう。
でも本当は、気づいて欲しかったんじゃないだろうか。でなければこんな、バレる危険が高いこと、するかな。
「シアン、僕はちゃんと知ったうえで考えたい」
シアンがゆっくりと両腕を上げた。降参の合図だ。
「やっぱりカンジ君はすごいなぁ」
張り詰めていた空気が、一気にゆるんだ。
「全部話す。どっか座ろ。あと、なんか飲み物も買お」
