因習村で贄やってるけど、思春期なので外に出ます

プロローグ

 令和X年、近畿地方のある田舎町が世間の注目を集めていた。

 理由は、統計開始以来続く出生率の高さ。

 高度成長期は都市部の成長の陰に隠れていたが、少子化がすすむ現代においても出生率が低下していない唯一の町として、関心をあつめていた。

 東京のような補助金や手当もなく、外部からの移住がふえるでもなく、その町はただただ、たくさん子どもがうまれる。統計データは、ふしぎなその事実を指し示していた。

 その町の名前は、子安(こやす)町。

町の中心に立派な神社のある、二世代遅れたような牧歌的な町である。
 その出生率の高さから平成の大合併をまぬかれ、古い地図そのままの姿を残す町。

 子安神社に守られた、子安町ーー。



【奉納】

 声がする。

 痛みにうめく女性の声は、これから産まれる新しい命の予感だ。玉の汗がしたたり、その場が一層の緊張感に包まれる。

ーーおぎゃあ、おぎゃあ。

「おかあさん、おとこの子ですよ」

 おもちゃのように小さな手は赤く、命がみなぎっている。

 *

「子安神さま、夜明けに奉納がありましたよ。今日は守田のシゲさんとこの子が生まれましたんでね。男の子だそうです」

 子安神社で神主を務める守村イサミが、神殿に向かって声をかける。
 この町で姓に「守」の字が入っているのは、子安神社と関わりの深い家の証だ。
 
 神主を務める守村が宗家で、分家として守田や守矢などがあり、神社の南側にまとまって暮らしている。

「ああ、シゲさんとこ。あすこはずっとええねぇ」
「お礼の意味もあって、はよにお参りに来てくれたんでしょう」

 イサミの手には、お供えの桐箱が乗せられている。

「さっそく頂かれますか」
「そうやなぁ、いただこか」

 イサミが障子をあけると、子安神が感嘆の声を上げた。
 温度を感じるほどの濃密な匂いが、イサミの持つ桐箱から漂ってくる。
 子安神の顔がついほころぶが、桐箱の一番近くにいるイサミは平常通りだ。

「イサミ、わからんか」
「はい、私には」

 このかぐわしい匂いを共有できないのを少し残念に思いながら、子安神は桐箱をうけとった。

 手のひらよりも小さな箱。

 開けるとそこには、先刻産まれた赤ん坊のへその緒が納められていた。

 まだ水気を多分に含んだ、赤い、赤い命。むせるような幸せを感じながら、その汁を舐め、身を食んだ。
 そして数瞬ののち、子安神はにっこり笑った。

「おいしいなぁ。ほんまにおいしいものを食べたときって、力がわいてくる」

 その言葉は、イサミにとってもこの町の人々にとっても非常に頼もしいものだった。

「なぁ、この子の名前、俺が付けたらあかんあかなぁ。シゲさん、嫌やろか」
「まさか、嫌がるわけがない」
「ほんま? じゃぁ、伝えといて。この子の名前はカンジ。カンジ君にするって」

 こうして、町の贄、守田カンジはこの世に生を受けたのである。