ホテルへ戻る前に近くのコンビニへ寄った。
これは予定通り部屋で晩酌するためだ。
お酒の棚を眺めると、ビールやチューハイ、ハイボールといった一人酒の定番から、一人前の小さなボトルワインまである。
迷った末に缶のハイボールを一本を買い物かごに入れると、続いておつまみコーナーへ。
棚にはチーズやナッツが並び、近くのショーケースには小さなカップ入りのポテトサラダもある。いくつ選んだところで、今度はデザートコーナーへ。
(あとこれも)
パッケージに「東京限定」と書かれたスイーツを手に取ると、買い物かごに入れる。
別にお腹は空いていないが、出張先のコンビニってどうしてこんなに楽しいのだろう。普段なら買わないものを買ってしまう。
弾んだ気持ちのままホテルへ戻ると、部屋のカードキーをかざす。
早速スーツを脱いでシャワーを浴びると、部屋着になる。
そしてベッド脇の小さなテーブルにハイボールとコンビニのおつまみを並べとテレビをつけたのだった。
適当にバラエティ番組にチャンネルを合わせたところでハイボールを開ける。
プシュッと小気味いい音が鳴ると缶を掲げたのだった。
「お疲れさま、私」
今度は少し大きな声で言って、ぐいっと飲む。
先程の銀だらの余韻がまだ残っているはすが、手は止まらない。
ポテトサラダをつまみつつ、間にチーズやナッツを食べる。
最後に東京限定のシールが貼られたコンビニスイーツの蓋を開ける。
「……食べるよね」
誰に言うでもなく呟きつつも、当然ながら食べる。
疲れた身体に染みる甘さ。
そして私はベッドに転がった。
今日は朝から仕事だった。
知らない場所での打ち合わせで緊張して気を遣って疲れた。
それなのになぜだろう。今は至福に満ちている。
朝食の鮭から始まって、昼の生姜焼きに夜の銀だら、そして「東京限定」のコンビニスイーツ。
たった一日のことなのに。
目を瞑るだけで、今日のことを思い出せる。
私はふと気づいた。
(出張って、仕事をするために来るものじゃないんだ)
仕事が終わったら早く帰りたいとばかり思っていたが、違ったのかもしれない。
仕事のために来た場所で、自分のための時間を少しだけ作る。
それも出張の一部なのだ。
私はスマートフォンのメモを開いて、明日の予定を確認する。
午前は商品の説明会があり、午後は最終打ち合わせ。新幹線は夕方の指定席を予約済み。
それなら考えることは一つだけ。
「お昼、何食べよう」
仕事の予定より先に昼食のことを考えている自分に笑ってしまう。
でもたまにはいいじゃないか。こんな時じゃないと東京に来る機会なんてないのだから。
私はスマホのメモを開いて『東京ひとりメシ』とタイトルを付けると、一行目には『気になった店に入る』と目標を書いた。
続けて今日食べたものを書いていく。こんがりとした赤身の『鮭』、甘辛ダレの『生姜焼き』、知る人ぞ知る店の『銀だら』。その下はまだ空白。
私はスマホをベッドに置く。
空白でいい。むしろ空白のほうがいい。
だってこれから何を食べるのか、まだ知らないのだから。
東京にはまだ入ったことのない店がたくさんあって、まだ食べたことのない料理や歩いたことのない道が無数にある。
だから私は少しだけ、楽しみにしている。
明日の仕事や打ち合わせのことでもない。
どんな匂いが漂う店を見つけて何を注文するのか。
そして一人で食べたその料理をどんな気持ちで味わうのか。それが出張メシの醍醐味なのだ。
「さて……今度は何を食べようかな」
そう呟いて、私は少しだけ笑ったのだった。
了
これは予定通り部屋で晩酌するためだ。
お酒の棚を眺めると、ビールやチューハイ、ハイボールといった一人酒の定番から、一人前の小さなボトルワインまである。
迷った末に缶のハイボールを一本を買い物かごに入れると、続いておつまみコーナーへ。
棚にはチーズやナッツが並び、近くのショーケースには小さなカップ入りのポテトサラダもある。いくつ選んだところで、今度はデザートコーナーへ。
(あとこれも)
パッケージに「東京限定」と書かれたスイーツを手に取ると、買い物かごに入れる。
別にお腹は空いていないが、出張先のコンビニってどうしてこんなに楽しいのだろう。普段なら買わないものを買ってしまう。
弾んだ気持ちのままホテルへ戻ると、部屋のカードキーをかざす。
早速スーツを脱いでシャワーを浴びると、部屋着になる。
そしてベッド脇の小さなテーブルにハイボールとコンビニのおつまみを並べとテレビをつけたのだった。
適当にバラエティ番組にチャンネルを合わせたところでハイボールを開ける。
プシュッと小気味いい音が鳴ると缶を掲げたのだった。
「お疲れさま、私」
今度は少し大きな声で言って、ぐいっと飲む。
先程の銀だらの余韻がまだ残っているはすが、手は止まらない。
ポテトサラダをつまみつつ、間にチーズやナッツを食べる。
最後に東京限定のシールが貼られたコンビニスイーツの蓋を開ける。
「……食べるよね」
誰に言うでもなく呟きつつも、当然ながら食べる。
疲れた身体に染みる甘さ。
そして私はベッドに転がった。
今日は朝から仕事だった。
知らない場所での打ち合わせで緊張して気を遣って疲れた。
それなのになぜだろう。今は至福に満ちている。
朝食の鮭から始まって、昼の生姜焼きに夜の銀だら、そして「東京限定」のコンビニスイーツ。
たった一日のことなのに。
目を瞑るだけで、今日のことを思い出せる。
私はふと気づいた。
(出張って、仕事をするために来るものじゃないんだ)
仕事が終わったら早く帰りたいとばかり思っていたが、違ったのかもしれない。
仕事のために来た場所で、自分のための時間を少しだけ作る。
それも出張の一部なのだ。
私はスマートフォンのメモを開いて、明日の予定を確認する。
午前は商品の説明会があり、午後は最終打ち合わせ。新幹線は夕方の指定席を予約済み。
それなら考えることは一つだけ。
「お昼、何食べよう」
仕事の予定より先に昼食のことを考えている自分に笑ってしまう。
でもたまにはいいじゃないか。こんな時じゃないと東京に来る機会なんてないのだから。
私はスマホのメモを開いて『東京ひとりメシ』とタイトルを付けると、一行目には『気になった店に入る』と目標を書いた。
続けて今日食べたものを書いていく。こんがりとした赤身の『鮭』、甘辛ダレの『生姜焼き』、知る人ぞ知る店の『銀だら』。その下はまだ空白。
私はスマホをベッドに置く。
空白でいい。むしろ空白のほうがいい。
だってこれから何を食べるのか、まだ知らないのだから。
東京にはまだ入ったことのない店がたくさんあって、まだ食べたことのない料理や歩いたことのない道が無数にある。
だから私は少しだけ、楽しみにしている。
明日の仕事や打ち合わせのことでもない。
どんな匂いが漂う店を見つけて何を注文するのか。
そして一人で食べたその料理をどんな気持ちで味わうのか。それが出張メシの醍醐味なのだ。
「さて……今度は何を食べようかな」
そう呟いて、私は少しだけ笑ったのだった。
了
