東京出張でひとりごはんはじめました

 午後の仕事を終えた頃には、外はすっかり暗くなっていた。
 今晩滞在するホテルへ向かおうと電車に乗っていると、途中で東京の夜景が目に入った。
 高いビルにネオン光る看板、歩道を行き交う人たち。誰もが忙しそうだ。
 やがて電車を降りると、私もその中を一人で歩く。
 いつもの私ならホテルへ直行していただろう。
 コンビニで弁当とビール一本、あとは酒のつまみになりそうをものを買って。
 そして部屋でテレビをつけると、ベッドに座って食べる。
 それはそれで楽しいが、今日は違う。
 朝に鮭、昼には生姜焼きを食べた。
 そして夜。

「どうしよう」

 私は立ち止まった。
 東京の夜は、誘惑が多すぎる。
 行列を作るラーメン店が並び、焼き鳥屋には仕事帰りの会社員たちが吸い込まれるように入っていく。
 寿司やおでん、カレーなんかも捨てがたい。
 銘酒揃いの居酒屋やスイーツ系のお店も。
 どれも魅力的だったが、さすがに昼の生姜焼きでお腹いっぱいだ。

(もうホテルに帰ろうかな)

 そのときだった。ふわりと風に乗って、醤油と出汁のいい匂いがした。

「……」

 振り返った先には、小さな店があった。
 大通りから少し外れた場所で、暖簾がかかっている。
 店の名前で口コミを調べるがヒットしない。メニューもわからず、看板料理さえ不明だ。
 ただ醤油と出汁に混ざって、焼き魚の匂いまで漂ってくる。

「……入ってみようかな」

 気になった店に入ると、今朝決めたはずだ。
 それなら夜だって……。
 私は覚悟を決めると、暖簾をくぐった。