東京出張でひとりごはんはじめました

 午前の仕事は、思ったより順調だった。
 取引先との打ち合わせも無事に終わり、私は昼休みに入った。
 ここで問題が一つ。

(お昼、どうしようかな……)

 朝食を食べたばかりなのに、もう昼食のことを考えている。
 我ながら食いしん坊だ。
 でも、今日は出張なのだから。
 私は会社から渡されていた資料を鞄にしまうと、代わりにスマートフォンを見る。
 会社近くにも飲食店はたくさんある。特にここはオフィス街だから会社員の客入り目当てでの出店も多いのだろう。
 気になってお店のレビューを片っ端から読む。
 星の数から店の外観や提供される料理の写真、そして口コミ。
 どこも美味しそうで、口の中に涎が溢れる。
 けれど今日は検索をやめて、代わりに歩いてみることにした。

「気になった店に入る」

 今回の出張の際に自分で決めたのだから、やってみよう。
 会社から出ると大通りを一本外れて、ビルとビルの隙間に入る。
 洗練されたオフィス街とは違って、昔ながらの少し古い建物が立ち並ぶ。
 小さな飲食店と看板、風に揺れる暖簾を眺めていると、その中にひときわ気になる店があった。
 店頭に置かれた黒板には手書きで書かれている。

『本日の日替わり 生姜焼き定食』

 通り過ぎようとした私の足がピクリと立ち止まった。

(生姜焼きなんて、いつ以来だろう)

 こってりした豚肉の油とピリリと香る生姜の辛味。罪悪感増し増しの肉料理だがものすごく好き。
 しかし問題があった。一人で入っていい店なのか。
 恐る恐る店内を見ると、カウンターやテーブルにはまばらに会社員らしきスーツ姿の男性たちがガツガツと生姜焼きと白米をかきこんでいた。
 もちろんその中には女性客もいた。

(これなら私もいけそう)

 そう確信した私は昔ながらの引き戸を開けたのだった。