東京出張でひとりごはんはじめました

 東京駅に着いたのは、午前八時過ぎだった。
打ち合わせは十時で、会社からは「現地に直接向かえばいい」と言われている。
 つまり、朝ご飯を食べる時間がある。
 私は東京駅の広い構内を歩きながら、妙に胸が高鳴るのを感じていた。
 朝食、出張。そして東京。
 この三つが揃うと、どうしてこんなに特別感が出るのだろう。

(普段なら朝は食パン一枚とコーヒーだけなのにね)

 時間がなければ、駅の売店でおにぎりというのが普通だ。
 でも今日は違う。私は出張中なのだ。
 そして、出勤前の会社員ではない。
 旅行者でもないけれど、ほんの少しだけ旅人に近い。
 そんな気がした。

「朝から食べちゃおうかな」

 私は駅のフロアマップを貰うと店の一覧を眺める。
 最近流行りのおにぎりに特化した専門店を始めとして、焼き立ての小麦の匂いが漂うパン屋から朝からオープンしているラーメン屋。
 打ち合わせに向けて白米と味噌汁がついたガッツリした定食も良さそう。
 どれも美味しそうで、今にもお腹がなりそうになる。
 けれども私の目を止めたのは、少し先に見えた暖簾のかかった定食屋の看板だった。
 こんがり焼き目の付いた焼き魚、プラス料金でアレンジも可能というふっくらとしただし巻き卵、老舗の味噌屋から取り寄せた味噌を使用した日替わりの味噌汁。
 そして米どころ東北地方から取り寄せたほかほかの白いご飯。
 それら朝定食の写真が破格の値段と共に看板に掲げられている。
 まさに理想の朝ごはんを前に私は立ち止まった。

「……これだ」

 理由なんてない。ただ、食べたくなった。
 それだけだった。