文部省特別広報室

『これは広告ではありません。
 やる気が出ない。体がだるい。
 これを見ている、あなた。
 心当たりがありませんか?
 振り返れば、あなたの人生、
 ずっとそうではありませんでしたか?
 学校の勉強にやる気が出ず、
 テストで低い点をとって、馬鹿にされた。
 働いても、あなたの能力は理解されない。
 朝、会社に行くために、起きるのがだるい。
 落ち込むことはありません。
 あなたは、本当は優秀な人間なのです。
 空を見上げてください。
 雲一つない青空です。
 あなたの住む地域の近く、
 空港などないのに、
 なぜか、飛んでいる飛行機を、
 見たことはありませんか?
 しかも、本当なら発生するはずの、
 飛行機雲がない飛行機を。
 666。
 この悪魔の数字によって、
 私達は、支配を受けているのです。
 666。6+6+6=18。
 元素番号18の元素を、
 あなたはご存知でしょう。
 アルゴンです。
 アルゴンは、
 化学反応をほとんど起こさない元素である、
 などと教科書に書かれています。
 しかし、それは真っ赤な嘘なのです。
 教科書は、闇の政府によって、
 検閲されたことしか書かれていないのです。
 アルゴンの正体は、神経ガスなのです。
 もう、お分かりですね。
 あなたが、やる気がない、また、
 能力がない人間だと判断されるのは、
 全て、この、アルゴンのせいなのです。
 政府は革命を恐れているのです。
 本当は、有能なあなたを、
 駄目な人間、無能な人間に仕立て上げる。
 あなたは奪われたのです。
 世界は、本当は、もっと、良くなる。
 これは広告ではありません。
 選ばれた一部の人間、
 いえ、あなた、
 に告げる真実です。
 私達は、闇の政府の陰謀に立ち向かうため、
 優秀なあなたを必要としています。
 ○月×日。
 私達は会合を開きます。
 集合場所は……』

 文部省特別広報室。
 課長は資料に目を通して、
 机の上に、放り投げる。
「鈴木くん」
「あ、はい」
「この広告、ターゲット層、分かってるよね」
「ええ、まあ」
「高校生じゃなくて、小学生くらいの人に、
 分かるように、
 分かった気にさせるように、
 説明をしようか。
 『落ち込むことはありません。
 空を見上げてください。』
 こことか、急に現実の話から、
 想像の話に切り替わってるでしょ。
 ちょっと、分かりにくいかな。
 『飛行機雲がない飛行機を』
 ここ、アルゴンが無色透明の気体、
 っていうことに、
 ちょっと引っ張られちゃったのかな。
 絵が浮かびやすい、飛行機雲がある、
 の方にしよう。
 ああ、でも、アルゴンの性質のくだりは、
 いいね。
 彼らは、自分の頭で考えることをせず、
 すぐ、スマホで検索するわけだから。
 こういった先回りは必要だね。
 ちょっと言えば、
 アルゴンの意味が、古代ギリシャ語で、
 怠け者。
 とか、
 大気中に1パーセント存在する。
 私達はそれを、除去することに成功した。
 とか、
 上級層は、ワクチンを受けているから、
 アルゴンの影響を受けない。
 とか、
 そういったことを踏まえて、
 もっと、分断を煽って、
 隠されていた、衝撃の真実感を出した方が、
 良いかもね」
「あ、あの、課長。これ、成功するんですか?」
「どういうことだい」
「前例の企画書を、いくつか読みました。
 動画サイトなどで、特定の人間に広告を、
 集めた人達を、集合場所から、
 暖房の効いたバスに乗せ、移動。
 車内での講演。
 駐車場から、一時間ほど山道を歩かせ、
 施設に収容。水を飲ます。
 『これは、元素修復水です。
 今までずっと、神経ガスによって、
 侵されていた体が正常に戻る』と説明。
 温泉で汗を流させ、再び元素修復水。
 その後、ストレッチ、ヨガ。
 再び、闇の政府の陰謀について講演。
 って、こんなので、上手くいくんですか」
「うーん、信じがたいのは分かるけど、
 上手くいってるしね。
 いくつも、団体あるでしょ。
 闇の政府の陰謀だ、って言っている組織。
 あれって、全部、闇の政府の陰謀だから」