西園寺さんの出張めし

第五話 博多豚骨ラーメンと過去の傷

 福岡出張の二日目。

仕事を終えた私は、博多駅から少し離れた住宅街へ向かっていた。

今日は、キャビンアテンダント時代の先輩に会う約束をしている。

先輩とは退職してからも、ときどき連絡を取り合っていた。

一年前地元の幼馴染と結婚し、そして今日の目的は、出産祝い。

「董子ちゃん!」

 インターホンを鳴らすと、懐かしい声が返ってきた。

 玄関を開けた先輩は、以前と変わらない笑顔で私を迎えてくれる。

「久しぶりだね!」

「お久しぶりです」

「わざわざ福岡まで来てくれたの?」

「あ、いえ……出張で」

「そっか! 相変わらず忙しいのね。でも会えてうれしい!」

 そう言って笑う先輩の腕には、小さな赤ちゃんが抱かれている。

「わあ……」

 思わず顔がほころんだ。先輩に似た赤ちゃんが私の顔をじっと見つめている。

「さあ、上がって!」

 そう言って招き入れてくれる。

先輩らしいスタイリッシュなインテリアのリビングに、ベビーベッドやおもちゃがたくさん置かれている。

「これ、出産祝いです」

 さんざん悩んだ結果、カタログギフトにした。先輩には好きだといっていたオーガニックのハーブティー。 

「わあ、ありがとう! ねえ、抱いてみる?」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん」

 恐る恐る腕を差し出す。

 ふわりと乗せてもらった瞬間、甘くて優しい匂いがして少し泣きそうだ。

「……かわいい」

「でしょ? かわいいの」

 先輩が笑う。

 昔は同じ制服を着て、同じ飛行機に乗っていた人が今は母親になっている。

 あれからかなりの時間が流れたことを、改めて感じた。

「董子ちゃんは、いいひといないの?」

 一瞬、花村さんの顔が浮かぶ。

「いないですね。今は仕事が楽しくて……」

 それが噓偽りない今の私。

「そっか、そうだよね。ごめんね、変なこと聞いて」

 先輩は今でも私のことを本気で心配してくれているのだろう。

新人時代の私は、とにかくマニュアル通りに動くことに必死だった。

仕事を完ぺきにこなせていたのに、評価されない。なにが悪いのか分からなくて、足掻いていた。

『あなたロボットみたいね』

 先輩の言葉にもちろん反発した。でも変わらなければ一流になれないと教えてくれたのも先輩だったから。

「いいえ。こんなにかわいいなら産んでみたいです、赤ちゃん」

 神様がチャンスがを与えてくれるのならば、いつか。