「ごめん、明日入れる?」
バイト先の店長が申し訳なさそうに私に手を合わせている。
ああ、まただ。
ため息が漏れそうになるのをぐっと堪えた。
わかってる。
誰も悪くない。
あの子、体調崩してしんどそうだったし。
人足りないのわかるし。
店長だってこんな申し訳なさそうにお願いしてる。
だからいつもどおり、
「大丈夫です」
そう言うと、半泣きのような顔をしていた店長の顔がぱっと明るくなった。
「ほんといつもありがとう!助かるよ!」
店長は深々と頭を下げてくれた。
大学の図書館は静かで居心地がいい。
だけど本を開いても、昨日の店長の顔ばかり浮かんでくる。
今日は久しぶりにゆっくりできる日だったのに。
なのに引き受けちゃって。
バイトまでの時間をまたここで過ごしている。
ファミレスのバイトは嫌いじゃない。
ありがとうって言われると嬉しいし。
制服だってかわいい。
だけど。
スマホでシフト表を確認する。
いつも人がギリギリなんだよね。
来週ももし誰か急に休んだら、また頼まれちゃうのかな。
そんなことを考えているうちにだんだん瞼が重くなってきた。
……はっ。
寝てた。
え、今何時?
慌ててスマホを見る。
やばい!
慌てて荷物をまとめて図書館を出た。
バイト先に近い裏口へ向かう。
外へ出ようとした時。
ザーーーーッ。
うそ。
目の前は滝のような豪雨。
え、さっきまで降ってなかったのに。
その場に立ちすくんでしまった。
どうしよう。
これじゃバイトに間に合わない。
でもさすがにこの雨じゃ動けない。
おろおろしながらも。
まず、連絡。
スマホを取り出し、
『すみません。この雨で少し遅れそうです』
と慌ててメッセージを入れた。
送信ボタンは押したけど、画面から目を離せない。
店長、すぐに見てくれるかな……。
すると、すぐに既読が付き、
『了解!安全第一で!』
と返信が来た。
あ、よかった。
よかった、けど。
店長、絶対困ってる……。
だけど。
ザーーーーッ。
雨は弱まる気配もない。
バス停まで走る?
いや、この雨じゃ無理。
私は大きく息を吐いた。
すると、
「あぁ、やられた」
私と同じように空を見上げている君島先生がいた。
「君も?」
「はい……」
「急ぎ?」
「バイトで」
「間に合う?」
「さっき、店長に遅れるって連絡したところです」
「そう」
君島先生は雨を見上げたまま頷いた。
激しい雨音だけが響く。
気だけが焦る。
スマホで時間を確認する。
まだ2分しか経ってなかった。
「返信は来たの?」
「はい……安全第一で、って」
「優しい店長さんだね」
「はい。でも」
「ん?」
「店長、絶対困ってます」
「うん」
うっ。
そんなはっきり肯定されると辛い。
事実だからよけいに。
君島先生は少し首を傾げたまま黙っていた。
「……心配?」
「はい。今日、人少なくて。急きょ私が入ったのに」
「あー」
「なのに迷惑かけてしまって」
「うん」
君島先生は黙っている。
雨音は鳴りやまない。
「だけど」
先生は雨を眺めながら、
「君も困ってるよね」
と言って私をちらりと見た。
目が合う。
思わずそらせてしまった。
「君は店長さんのことばかり考えてるね」
「……」
「でも、君も困ってる」
「……」
「大雨なんだから」
「……でも、引き受けたのは私だから」
私は唇をきゅっと結んだ。
「うん」
君島先生は私を見つめ、
「君は約束を守ろうとしてる」
「はい」
「ちゃんと連絡もした」
こくりと頷く。
「それなら今日は十分じゃない?」
そう言って、小さく笑った。
「十分……」
「僕は、君にできることはもうやったと思うよ」
……。
そうなのかな。
私はまだ、店長の困った顔ばかり浮かんでいた。
気づけば雨は小降りになっていた。
「やみそうだね」
君島先生はのぞき込むように空を見上げた。
私もつられて見上げる。
「よかった」
「うん」
「先生、失礼します」
「はい。気をつけて」
「はい」
私は君島先生に軽く会釈をして校舎を後にした。
学生の後ろ姿を見送っていると、ポケットのスマホが震えた。
画面には「着いたよ」の文字。
「あ、僕も遅れたな」
小さく笑ってしまった。
バイト先の店長が申し訳なさそうに私に手を合わせている。
ああ、まただ。
ため息が漏れそうになるのをぐっと堪えた。
わかってる。
誰も悪くない。
あの子、体調崩してしんどそうだったし。
人足りないのわかるし。
店長だってこんな申し訳なさそうにお願いしてる。
だからいつもどおり、
「大丈夫です」
そう言うと、半泣きのような顔をしていた店長の顔がぱっと明るくなった。
「ほんといつもありがとう!助かるよ!」
店長は深々と頭を下げてくれた。
大学の図書館は静かで居心地がいい。
だけど本を開いても、昨日の店長の顔ばかり浮かんでくる。
今日は久しぶりにゆっくりできる日だったのに。
なのに引き受けちゃって。
バイトまでの時間をまたここで過ごしている。
ファミレスのバイトは嫌いじゃない。
ありがとうって言われると嬉しいし。
制服だってかわいい。
だけど。
スマホでシフト表を確認する。
いつも人がギリギリなんだよね。
来週ももし誰か急に休んだら、また頼まれちゃうのかな。
そんなことを考えているうちにだんだん瞼が重くなってきた。
……はっ。
寝てた。
え、今何時?
慌ててスマホを見る。
やばい!
慌てて荷物をまとめて図書館を出た。
バイト先に近い裏口へ向かう。
外へ出ようとした時。
ザーーーーッ。
うそ。
目の前は滝のような豪雨。
え、さっきまで降ってなかったのに。
その場に立ちすくんでしまった。
どうしよう。
これじゃバイトに間に合わない。
でもさすがにこの雨じゃ動けない。
おろおろしながらも。
まず、連絡。
スマホを取り出し、
『すみません。この雨で少し遅れそうです』
と慌ててメッセージを入れた。
送信ボタンは押したけど、画面から目を離せない。
店長、すぐに見てくれるかな……。
すると、すぐに既読が付き、
『了解!安全第一で!』
と返信が来た。
あ、よかった。
よかった、けど。
店長、絶対困ってる……。
だけど。
ザーーーーッ。
雨は弱まる気配もない。
バス停まで走る?
いや、この雨じゃ無理。
私は大きく息を吐いた。
すると、
「あぁ、やられた」
私と同じように空を見上げている君島先生がいた。
「君も?」
「はい……」
「急ぎ?」
「バイトで」
「間に合う?」
「さっき、店長に遅れるって連絡したところです」
「そう」
君島先生は雨を見上げたまま頷いた。
激しい雨音だけが響く。
気だけが焦る。
スマホで時間を確認する。
まだ2分しか経ってなかった。
「返信は来たの?」
「はい……安全第一で、って」
「優しい店長さんだね」
「はい。でも」
「ん?」
「店長、絶対困ってます」
「うん」
うっ。
そんなはっきり肯定されると辛い。
事実だからよけいに。
君島先生は少し首を傾げたまま黙っていた。
「……心配?」
「はい。今日、人少なくて。急きょ私が入ったのに」
「あー」
「なのに迷惑かけてしまって」
「うん」
君島先生は黙っている。
雨音は鳴りやまない。
「だけど」
先生は雨を眺めながら、
「君も困ってるよね」
と言って私をちらりと見た。
目が合う。
思わずそらせてしまった。
「君は店長さんのことばかり考えてるね」
「……」
「でも、君も困ってる」
「……」
「大雨なんだから」
「……でも、引き受けたのは私だから」
私は唇をきゅっと結んだ。
「うん」
君島先生は私を見つめ、
「君は約束を守ろうとしてる」
「はい」
「ちゃんと連絡もした」
こくりと頷く。
「それなら今日は十分じゃない?」
そう言って、小さく笑った。
「十分……」
「僕は、君にできることはもうやったと思うよ」
……。
そうなのかな。
私はまだ、店長の困った顔ばかり浮かんでいた。
気づけば雨は小降りになっていた。
「やみそうだね」
君島先生はのぞき込むように空を見上げた。
私もつられて見上げる。
「よかった」
「うん」
「先生、失礼します」
「はい。気をつけて」
「はい」
私は君島先生に軽く会釈をして校舎を後にした。
学生の後ろ姿を見送っていると、ポケットのスマホが震えた。
画面には「着いたよ」の文字。
「あ、僕も遅れたな」
小さく笑ってしまった。



