分かれ身の乙女と孤高の水神様の贄婚 〜煩わしき君に恋煩うまで、あと×日〜

「お嬢様、早くお目覚めくださいませ……」

 ここは水神湖のほど近くにある管理小屋。
 その室内に設えられた簡素な寝台の上に静かに横たわる女性――千香お嬢様のお世話をするのが、私こと志賀に任せられた役目だ。
 お嬢様が「贄婚」の儀式に臨んでから、早くも三日が経過した。
 本来ならばその日のうちに目を覚ます手筈だったのに。
 ところがどういうわけか、お嬢様は目覚めることなく今に至っている。

 一応、湿らせた綿を含ませるなどして多少の水分は摂ってもらっている。
 だがいつまでも食事が出来ないとなると体調が心配だ。
 どうにもならなくなれば、最終的には近隣の医者を呼んでこなくてはならなくなるだろう。
 とはいえ、このあたり一帯は加須良の勢力圏だ。
 そこに住まう医者も、どこで加須良家の縁者とつながっているか分かったものではない。
 せっかく「贄」としての「死」を以て加須良家から離れ、今後はただの千香お嬢様として自由な人生を生きることが出来ると喜んでいらしたのに。
 それを私の軽率な一手が阻んでしまうようなことは、極力避けたい。
 だからお嬢様を心配しつつも、私はぎりぎりまでこの小屋で密やかにお目覚めをお待ちしようと思っていた。
 その判断自体は、決して間違っていなかったはずだ。

 もし、私に間違えていたことがあるとするならば。
 それは――お嬢様という方が背負う運命の、あまりの数奇さを読み間違えていたということにほかならない。

***