分かれ身の乙女と孤高の水神様の贄婚 〜煩わしき君に恋煩うまで、あと×日〜

「いや! いえ! 決して差し上げたくないわけではないのですが!! しかし千香はこの通り意識不明で瀕死の状態なのですよ!? 妃としての役目など果たすことはできません。今後目覚めたとしても、宮様の妃に足るような資質を持ってはおりません。……失礼ながら、千香の妹ではいけませんか? 美与と申す娘ですが、あの子ならば心身ともに健やかですし、母親がきちんと躾けておりますので自信を持って宮様に差し上げられます」

 ……私は生まれて初めて、当主に加勢したいと思った。
 相変わらずお嬢様をひどくけなすのは、全くいただけないけれど。
 しかし意識不明のお嬢様を宮様の妃に、などという訳のわからない事態に巻き込まれるよりは当主に加勢するほうがましだと思ったのだ。
 だが宮様は「ならぬ」と即座に首を横に振った。

「気に入ったのはこの娘だ。この娘でなければ要らない。さあ当主、どうする?」
「……さようですか」

 ……ああ、駄目だ。これは落ちる。
 見初められたのが自分の本意ではない娘だったとしても、皇家とつながるまたとない機会をこの当主(おとこ)がみすみす手放すわけがない……。

「承知いたしました。千香のこの状態を知った上でのお申し出であれば、こちらに異存はございません」

 案の定、そう言うなり当主は深く頭を下げたのだった。
 そのせいで表情は窺えないが、お嬢様の輿入れに妹を付き添わせて入宮させれば、いずれ宮様の寵は奪えるなどと今後の算段をつけているのかもしれない。

 ……いずれにしても、私は与えられた任務に失敗したのだ。
 お嬢様の意識が戻らぬ間、お体をお守りすること――それはお嬢様が信頼してくださったからこそ、お任せいただいた大切な仕事だったのに。
 それなのに、たった数日ももたずにこんなことになってしまうなんて。
 自分の無能さにほとほと呆れ果てる。

 しかし、なってしまったものは仕方がない。
 ここからは出来る限り被害を少なくするための戦いだ。
 なんとかそう意識を切り替えて、私は宮様に向き合った。

「恐れながら申し上げます! 三の宮様、私は終生お嬢様にお仕えしとうございます! ゆえに、どうか私をこれからもお嬢様のおそばに置いてくださいませ!」
「愚か者め、何を言うか! 恐れ多くも宮様のおそばにお前のような無作法者を置けるわけがないだろう! それよりも行儀見習いも兼ねて、美与を千香の世話係として付き添わせてはなりませんか?」

 私をぐいと押しのけた当主が宮様にそう切願したが、宮様は今度も首を横に振った。

「ならぬ。悪く思わないでほしいが、私はそもそも周りに多くの者がいることがあまり好きではないのだ。妹御を置けば、妹御を世話する者も要るだろう? それよりはそこの女中の見上げた忠誠心にこそ応えてやりたいと思ったのだ。我がもとに来るのは、千香殿とそこの女中。当主、それでも構わないだろうか?」
「……承知いたしました」

 こうして、なんとか最低限の挽回だけは出来たのだった。
 とはいえ、このようにややこしい事態に陥ってしまうだなんて……。

 お目覚めになったら、お嬢様に何と説明したら良いのだろう。
 頬を引きつらせる当主と上機嫌の宮様を前に、私は頭を抱えることしかできなかった。