分かれ身の乙女と孤高の水神様の贄婚 〜煩わしき君に恋煩うまで、あと×日〜

 この世は、とかくままならぬものである。

「水神様、私をあなたの伴侶としておそばに置いてくださいませ」

 七日前までは、死んでもこの人とは相容れぬと思っていた男。
 まさにその人に、私はたった今、自分からお近づきになろうとしているのだから。

「……女、かように翻意するとは一体何を企んでいる? 初対面で寵など要らぬと啖呵を切ったのはそなたのほうであろう?」
「水神様相手に何事かを企むなど、滅相もございません。ただ心を入れ替えただけです。そして私の名は千香(ちか)。以後どうぞお見知りおきくださいませ」

 意識的ににこりと笑んで言えば、男はまるで信じていないという様子ながらそれ以上は言葉を続けずに黙考する。
 そしてしばらく沈黙が続いたあと、渋々ではあるものの小さく頷いたのだった。

「まあ……状況が状況ゆえ、やむを得ぬか。ただし、ゆめゆめ忘れるな」

 ――お前は形ばかりの伴侶とするゆえ、その先に愛を求めるなら希望は捨てよ。なにせ俺は「地の上からやってきた女」が嫌いだからな。

 そう言い切った男は、私をじっと見つめて静かに言葉を継いだのだ。

「余計なことは考えず、静かに生きよ(・・・・・・)。それが聞けるならこの話、受けてやろう」
「お約束いたします。私は誰よりも静かに生きてみせます」

 そして静かに消えてご覧に入れましょう――という一言だけは、口に出さず胸の中にしまう。

「……そうか」

 私の言葉に、男はそっと白銀の睫毛を伏せた。

「何があってもその言葉(・・・・)、忘れるな」

 続けて小さく呟かれた言葉には、どういうわけか切実な響きがこもっているように感じられた。