保護猫、飼ってます。





都合の良い人でも、役に立てて良かった。パソコンと紙を交互に見て、素早く修正部分を確認する。卒論でパソコンのキーボードは打ち慣れているけど、いつもより指の機嫌が良い。ノールックで作業していると、隣の席から声をかけられた。




「早いね。そういうの、得意?」


「得意というか、必要とされたのが嬉しくて、ちょっと舞い上がって。いつもより、調子が良いみたいです」


「インターンなら、どこ行っても必要とされるでしょ。可愛いがってもらえるし、元気ハツラツって感じじゃん?」




俺の場合はそうもいかない。開発部で、インターンとは思えない萎れた雰囲気を纏っていて、たまに俺の存在を認識されていないように感じることもある。それは俺自身の意欲のなさもあるんだけど。謙遜の意味は全くなく、首を横に振る。


でもそれを隣の席の人は見ていなかったようで、閃いたように何もない天井を見上げて手をひとつ叩く。開発部の人とはあまり話さないから分からなかったけど、社会人ってこんな突拍子もないものなんだろうか。




「そういえばこの会社、積極的にインターンの子を入れてて。他の部にはいるんだけど、営業だけいないんだよね」


「え、何でですか?一番勉強になりそうなのに」


「そう思うでしょ?外に出てお客さんと密に話すから、いろいろ責任とかそういう線引きがあるんじゃないかな」


「線引き…」




また画面に視線を落として、キーボードを叩き始める。開発部の雰囲気とはまるで逆で、慌ただしく人の出入りがあって、安定を求めている俺にとっては一番合わなそうな部署。それなのに、この場所に惹かれている。理由は分からない。


れおが来て生きる目的が変わって、雰囲気も騒がしさを求めるようになったのか。しかも、ここだけ受け入れていないと言われた途端、余計にこの場に惹かれた。過ぎた一瞬を振り返る余裕もない、今だけを突っ走る部署。




「興味あったら、また覗きに来てよ。いつでも大歓迎ー。手なんて、いくらあっても足んないから」




資料の修正も終わり、すれ違う人全員から感謝されて会社を出る。文字を打ち直しただけで、この達成感は何だろう。久しぶりの興奮と名残惜しさを感じた。開発部のインターンが、普段なら許されない部署間交流。短時間だから楽しかったのかな。



お世辞だったであろう〝また覗きに来て〟を本気で受け取りたい。でもインターンで開発部にいる以上、俺が営業部に足を向けることは、もうない。エントランスの自動ドアを抜けて、生温いジトっとした風を全身に受け、一気に肌が湿った。


遠くで雷鳴が聞こえて、空を見ると青い空を覆い隠すように、黒く分厚い雲が近づいている。早く帰らないと、降られそう。駆け足で家に向かった。