今日もいつも通り、定時で開発の仕事を終わらせて、チャイムと同時に周りにいる社員に声をかける。
「お疲れー」
俺の方を見向きもせず、顕微鏡を覗き込んでいる。これもいつもの光景で、返ってきた挨拶を受けて白衣を脱ぎ、部屋を出る。扉が閉まると、自然とため息が出た。
家では行きも帰りも、れおのオーバーな感情表現を、半分引きながら受け入れている。その表現に慣れてくると、開発部の人たちの挨拶が物足りなくなってくる。せめて目を見て挨拶してほしいとか、もしかしたら俺もそういう挨拶をしているのかもしれないとか。色々考えて、れおが来てから俺の感情の流れも変わったなと、感じさせられる。
悪く言えば、れおに影響を受けている。それに気づいて、ため息が出た。今までの自分が、どれだけ停滞していのか、学生としてのパワフルさに欠けていたことに、れおが来て気づかされた。
「俺も、れおみたいにならないといけないのかな」
独り言を廊下で呟くと、遠くから走ってくるスーツ姿の人が見えた。総務部か営業部か。ものすごい勢いのある風を吹かせて俺の前で止まると、腕を掴まれた。
「君、インターンの子だったよね?」
「そう、ですけど…」
「ごめん!営業なんだけど、ちょっと手伝って!良いところにいた!」
上司の許可なく、営業部に引っ張られて連れられてきたけど、大丈夫だろうか。高校生以来の全力疾走で、もつれる足を何とか動かす。
営業部はスーツの人だらけで、開発部の堅苦しさとは少し違う、ピリつきさえも感じられた。そんな中にラフな格好の場違いな俺がいて、すごく浮いている。手伝って欲しいと言われたのは、データの打ち直し。手直しがされている資料通りに、修正してほしいというものだった。
「みんな帰っちゃってから気づいて。誰でも良いから手伝って欲しかったの。ちょうど君がいて良かったよ」



