猫としての感情で好きと言っていると思いたいけど、そうじゃないことだけは伝わる。男に好かれたことがない俺としては、戸惑いで言葉に詰まってしまった。
「僕は祥夜のことが好きで、この家に来たから。連れて帰ってほしくて後ろ追いかけたし、離れたくなくて引っ付いていたい」
「あ、あのさ…。ちょっと待って、頭が追いついてないんだよね」
面食らうとは、まさにこのことだ。俺はれおに擁護に近い感情はあっても、特別な感情はない。手のひらをれおに向けて、いつも通りステイをさせる。するとその手のひらに、れおの手のひらが重なる。
「…何やってんの」
避けようと手を引こうとしたのに、指1本1本を絡め取るように握られた。じっと目を見られて、その目の鋭さに、れおから視線を外せなくなる。
冷房がうなる地響きのような音が部屋を覆い尽くし、唾が喉を通って行く音さえ、はっきりと聞こえた。
「…れお」
「ステイ?しないよ」
お互いに出方を伺って、見つめあったまま沈黙が続く。れおの目に吸い込まれたら、俺の中の何かが崩れる。その直感で、俯いて強く目を瞑りどうにか目を逸らした。
「祥夜?」
「ごめん。ちょっとまだ…、無理」
れおを傷つけたくなくて、選んだ言葉。拒否したら傷つけてしまうと分かっていたけど、れおを受け入れる心の許容は、まだ持ち合わせていない。
握られた手はスルッと解かれて、れおの手が俺の首に触れた。キンキンに冷えた手。あまりにも冷たくて目を開けると、れおの顔が近づいてきて、温かくて少しだけ震えた唇が柔らかく頬に当たった。
「え、あ、あの」
「ごめん」
「…手、冷たい」
「いつもこんなんだよ。でも祥夜に引っ付いたら、大丈夫」
眉を下げて、無理して笑っている。こんな顔させたのは俺なのに、俺まで苦しくなる。気まずいわけじゃないのに、れおの顔を直視できなくて、弁解もできない。
「祥夜の反応が普通なんじゃないかな。僕は、普通じゃないから」
「いや。でも、最近そういう人もいるって、聞くし。ドラマでもやってるじゃん」
「みんながそうじゃないでしょ?それを嫌だと思う人もいるわけだし」
「そうだけど…。びっくりしただけだから。拒否したとかじゃないから」
「大丈夫だよ」
俺から離れると、テレビの横に置かれた観葉植物に近づき、ツンツンとした葉っぱを人差し指で突いて遊ぶれお。下唇をかんでいるのが見えて、心がチクッと痛んだ。



