その日は、開発の仕事も悔いのないように楽しんだ。上司とも飲みに行く約束もしたし、営業部の人にも来週からお世話になる挨拶もして、定時で上がった。れおに早く伝えたい。感謝を言いたい。
会社を出てすぐは早足だったのに、いつの間にか駆け足になっていて、家に着くころには息が切れていた。
「れお!」
「おかえりー。…急いで帰ってきたの?」
「れおに…、伝えたいことがあって」
ベットサイドで足をぷらぷらさせている、れおの隣にへたり込む。切れた息を整えている間に、冷蔵庫のペットボトルの水を取ってきてくれた。
「ありがと…」
「ゆっくりで良いよ。楽しみだから、早く聞きたいけどね」
三角座りをして、目を輝かせて俺を見ている。ワクワクが目から十分伝わってきて、俺も早く伝えたくなった。どうにか息を整えて、れおに向き直ると、妙な距離の近さに心臓が小さく跳ねる。
「近くない?」
「良い話なんでしょ?楽しみなんだもん」
懐いてくるのに俺に仕掛けようとしてくる、ずる賢さ。その罠にまんまと嵌まって、心を持っていかれている俺。
「営業部に異動が決まった」
「え!?すごいね!」
「れおのおかげだから。早く伝えたくて」
「僕のおかげ?…僕、何もしてないよ」
そんなことない。れおの存在が、俺に勇気をくれた。れおは自覚していなくても俺が一歩踏み出せたのは、れおのおかげ。隣に座るれおに、抱きついた。
「ありがとう…」
「…よく分かんないけど、どういたしまして!」
背中に手を回してくれて、頭も撫でてくれたれお。嬉しくてさらに強く抱きつくと、足まで絡みついてきた。
「ちょっと!転けるって」
「抱きついてきたの、そっちでしょ?」
れおがお祝いしたいと言ってくれて、結局俺のお金だけど、デリバリーを頼んだ。笑いの絶えない、時々れおの奇声も聞こえながら、ご飯に齧り付く。
思い返せば、俺が保護猫カフェに行かなかったら、れおと出会えていなかった。あの場に行こうと思ったのも、変わり映えのしない、つまらない日常の刺激を求めていたから。そう思うと、俺自身が気づかないうちに、何かを変えたいと動き出せていたのかもしれない。
そうやってれおに出会えて、したことのない恋愛も少し経験できて。出会うことはなかったかもしれない、自分の好きなこと、やりたいことにも出会えた。
「れお、ありがとうね。これからも一緒にいような」
「祥夜からそんなこと言ってくるの、珍しいね。プロポーズ?」
「違うから!飯取り上げるよ!」
もう十分傷の舐め合いはできた。これからはその先の、心の支え合いをしていきたい。



