保護猫、飼ってます。





「失礼します」


「あぁ、来てもらってごめんね。座って」




営業部に設置されている応接室に通されると、部屋にはすでに部長さんと隣に河北さんがいた。河北さんは顔を伏せていて俺と目が合わないし、部長さんは掴みどころがない笑顔を見せていて、気さくなようで一番怖い人かもしれない。


上司の隣に俺も腰掛けると、先に俺の甘えが悪かったと言いたいのに、声が出なくて喉でつっかえてしまった。




「朝っぱらから呼び出してごめんね。河西くんに話があって、君の上司にも立ち会ってもらった」


「…はい」


「話なんだけどね。君を営業部に引っ張れないかなっていう提案なんだ」


「……へ?」




やっと目が合った河北さんは、ドッキリ大成功みたいな意地悪な表情をしていて、てっきり怒られると思っていたので、変な声が出てしまった。




「開発に入りたいって来たのも分かってるし、最近営業部に異動したいって思ってるのも知ってる。だから君の上司に、現状を話したんだ。それで、期間限定で営業部の仕事を手伝ってもらって、その上で君がどこで仕事をしたいか、決めてもらうことにした。どうかな?」




孤独を抜け出そうともがいて、自分の力で幸せになったれお。俺はこのままで良いのか。せっかくもらったチャンスを、幸せを、自分の手で掴みたい。覚悟を決めて拳を膝の上で握りしめた。




「ありがとうございます。受けさせてください」




営業部は、主にルート営業。たまに商社がもらってきてくれる仕事に対してヒアリングを行い、希望の品を提供する。お客様と対面で関わる仕事になると、刺激も多い。今までの穏便を求めてきた俺と、ギャップが大きい。それでも、挑戦したいと思えたのは、れおのおかげだった。




「それは良かった。じゃあ、キリ良く来週8月から営業部に来てもらうから。準備しておいてね」


「よろしくお願いします」




こんな話、もらえると思っていなかった。嬉しいと思う反面、隣の席の開発部の上司の目が見れない。申し訳ないというか、後ろめたいというか。


応接室を出てからも、歩き方を忘れるほど緊張して上司の隣を歩きたくなかった。





「河西くん。今、後ろめたいとか思ってるでしょ?」


「……はい。正直、思ってます」


「思わなくて良いんだよ。俺は営業部長から河西くんの話を聞いた時、嬉しかった」




そう言って俺の顔を見た上司の表情が、本当に嬉しそうに目尻を下げていたので、少し肩の力が抜けた。




「河西くんがやりたいこととか、何考えてるか分からなかったから。自分の思いに忠実に動ける学生でいてくれることの方が、俺も上司としては寂しいけど嬉しい。だから営業部で頑張ってきて!沢山の荒波に揉まれてもらわないと」




背中が裂けそうなくらいバシッと叩かれた。今まで社会のことを教えてもらった開発部の人に、まだ申し訳なさが抜けないけど、営業部で思い切り楽しむことが恩返しになるなら、俺はそうしたい。




「ありがとうございます。荒波、揉まれてきます」


「話くらいは、いつでも聞くよ。飲みにでも行こう」


「はい!」


「あ、これって何ハラ?」


「俺は大丈夫です(笑)」