視界には茶色のシミが所々見える、くすんだ白の天井と、鼻から上だけを見せたれお。れおに焦点を合わせると、〝おはよ〟と寝起きの掠れを含んだ優しい声が聞こえた。
まだ起ききっていない頭を起こそうとれおの方を見ると、上半身だけを上げてベットに両肘をついた体勢になっていて、どうやら俺の起き抜けを観察していたらしい。
「…おはよ。いつから起きてたの」
「今起きたところ。祥夜の寝顔が可愛くて、見てた」
寝顔を見られていたと思うと恥ずかしくて、腕で顔を覆った。朝から甘いって、何なんだ。
「祥夜」
「…今は無理」
「じゃあ、いつなら良い?キス」
「は!?」
昨日の夜でも精一杯だったのに、朝からとんでもない言葉を聞いた。顔を覆っていた腕も、驚いて解いてしまい、〝今だっ〟の声が聞こえた時には、防御するより先にれおの唇が触れていて、一拍おいてゆっくり離れていく。段々と見えてきた、れおの顔を目で追う。
「仕事、行かなくて大丈夫?」
「行くけど…、朝から」
「だめだった?」
聞くのは、ずるい。むくっと起き上がり、〝うん。だめだった〟と冗談を言うと、澄ました顔から一気に余裕がない顔に変わり、今度は俺が〝今だっ〟とベットを抜け出した。
「あー!もう、ずるい!」
「ずるくないよ。れおも同じことしたでしょ」
ベットを拳で叩いて悔しがっているのを、してやったりの顔で笑う。
「顔洗ってきて。ご飯作るから」
「…はーい」
会社に向かう日の、家を出るまでのいつものルーティンを済ませ、れおと向かい合っていつもの朝ごはんを食べる。美味しいねと感想を言い合うタイミングも同じ、スクランブルエッグを乗せた食パンを一口齧った後すぐ。
「じゃあ行ってくるね。今日はすぐ帰ってくるから」
「うん、頑張ってね。行ってらっしゃい」
いつもの見送り、いつものハグ。全部がいつもの流れ。全部がれおが来てから変わった日常だけど、これが俺にとっては心地よい毎日のルーティン。
「おはようございます」
「おはよう。…あ、河西くん。ちょっと良いかな」
仕事に対する思いも、前よりはポジティブになれた気がして、声の張りにもそれが乗っていると思う。意気揚々と席に座りかけた時、上司に声をかけられてドスンと座ってしまったお尻をすぐに上げようとして、足が滑って立てなかった。
「はい。何でしょう?」
「営業部に呼ばれてて」
「…誰がですか?」
「僕と河西くんが」
ついに浮気がバレた。背中に冷や汗が一筋流れた。責め立てられるのかな。営業部の人は何も悪くないって言って、分かってもらえるかな。俺の甘えだって言えるかな。
定時終わりに向かう足は軽いのに、鉛を引き摺るように営業部に向かった。



