「祥夜、お風呂入らなきゃ」
「うん…」
うつ伏せで目を瞑り、この気まずさを打破する方法を考えていると、れおが目にかかった俺の前髪を優しく退かしてくれた。目を開けると、しゃがみ込んだれおが泣きそうな目をして俺を見ていて、何か言いたげ。
「れお…、あのさ」
「ステイ」
「え、それ俺の…」
ちゃんと話そうと起き上がったのにステイをくらって、おまけに髪をかき分けられた場所にれおの唇が触れた。後頭部に手があったから後ろにも逃げられず、成り行きを見守るしかなかった。
「僕のこと、全然見てくれないから。チキン南蛮一緒に食べたかったのに、置き手紙だけして出ていっちゃうし」
「それは…、起こそうとはした」
「起こされた覚えない」
ベットに足をかけて上がってきたれお。このまま行けば逃げ場がなくなる。逃げられる場所はいくらでもあるのに、体は動こうとしなくて、逃げ場がなくなる後ろに下がっていく。
「楽しそうに会社の人と飲んでるし、酔ってたし」
「お酒、あんま強くないから」
また1歩。
「距離近かったよね?無防備すぎでしょ」
「…」
またさらに1歩。
「僕、もうステイできないよ?」
もうこれ以上、逃げ場がない。背中にはぴったりと壁があって、三角座りしているから足の分の距離があるだけ。気持ち、手のひらをれおに見せる。
「ステイ…、しててよ」
「やだ。ねぇ、早く僕のこと、好きになって」
俺は下がれないのに、れおはじりじりと近づいてきて、制止していた手も呆気なく下げられて、意味を成さなくなる。三角座りの分の距離も意味がなく、もう唇が目の前。逃げられるのに、目を瞑って逃げなかった。すると温かい息が口元にかかって、ゆっくりと重なり、ふにっとした柔らかさを感じて、すぐ下唇を甘噛みされた。
そこまで深くなると思わなくて、もがいてれおの肩あたりの服を掴む。離れてほしくて掴んで押したのに、伝わらなかったのか甘噛みをし直して、俺の顔が熱くなるのが分かった。どうか離れて…、息ができない。全身が強張ってきて、さらに強く目を瞑ると、テレパシーのように、れおが離れた。でもまだ距離は近くて、目を開けると額同士がくっつく。
「お酒の味がした」
「…飲んだから」
「酒くさい。水飲んで、頭冷やした方が良いんじゃない」
額が離れると、机の上に置かれていた飲みかけのペットボトルの水を、れおが口に含み俺に近づく。
「待って!自分で飲める!」
「僕の口もお酒の味するもん。ついでだから」
「そういうことじゃないから!」
俺に口移ししようとするれおをステイさせて、れおからペットボトルを奪って飲んだ。口移しは勘弁してほしい。腰が砕ける。



