珍しく声をかけられたと思ったら、余程頬が緩んでいたらしい。〝彼女でもできたの?〟と聞かれたけど、それは今時セクハラだと返しておいた。でもその返しも、完全に間違いではなかったからこその八つ当たり。正しくは彼女ではないけど、だったら俺たちの関係は何と呼べば良いんだろう。
「変なこと聞くんですけど」
「え、何急に。河西くんの方こそ、セクハラ?」
「違いますよ。まぁセンシティブな話ではありますけど…、男を好きになったことってあります?」
聞いてから後悔した。上司の表情が固まって、手を前に伸ばして距離を取り、返事が来ない。俺を見る目が一瞬で軽蔑に変わり、だから距離を置いてきたのに…、と言ってしまってから思った。
「河西くん…、そういう感じ?」
「そういう感じって…どういう感じっすか」
「俺は、嫁がいるから先に謝っとく」
「男を好きになったことがあるかって聞いただけですって。狙ってるなんて誰も言ってないっす」
上司を好きになるような、手の早いインターンになるつもりはない。表情が固まったのは、狙われていると思われていたからのようで、安心したように頬が緩んでいる。
「好きになったのは女の人しかないけど、今ならそういうのもあるよな。いろいろ成立しないことも多いとは思うけど、恋愛だけを楽しむんだったらアリなんじゃない?」
「なるほど…、そうですよね。パートナーみたいな感覚ですよね」
「あー、そうだな。それがしっくりくるな」
恋愛だけを楽しむ、パートナー。パートナーという言葉なら抵抗なく、れおとの関係性に説明がつく。いわゆる同居人のような。
「河西くん、パートナーいるの?誰?この会社の子?」
上司の質問攻めも無視して、軽く頷きながら納得して自分の席に座る。〝そうか、会社の子か…。誰だ?〟と、俺の頷きを肯定と勘違いした上司が、俺のパートナー探しをしていた。
俺とれおの関係の名前にしっくりきたから、上司には勝手に、いないパートナー探しをしてもらっておいて、仕事に集中する。といっても、営業の仕事に完全に興味を持っていかれたので、なかなか開発の仕事に力が入らない。



