桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「この皇城は、獣人族たちがそれぞれ宮をかまえている。そして俺たち狼族が治める東の宮近くに、突如としておまえが現れた」
「……それで、東宮さまがわたしの身柄をあずかることになった、と」
「そういうことだ。ほかに聞きたいことは」
「はい……?」

 どうやら、わたしにも多少は発言権があるらしい。
 すこしと言わず驚いたけれど、それなら。

「では……宮をかまえる『獣人族たち』、というのは」
「南を(イン)族、西を(フー)族、北を(シオン)族が守っている。俺は東を守る狼族の長ゆえ、東宮と呼ばれている」
「同じ皇城内に、よっつの種族が……それぞれに(みかど)がいらっしゃるということですか?」
「そうだ。ともに憎き柳王朝を討ち果たした四家(しか)が手を取り合い、(まつりごと)を行っている。わが天陽国(てんようこく)は、そうして百年ものあいだ栄えてきた」
「天陽国……」

 もちろん、聞いたことのない国の名だ。

(でも昨晩見た池……あれは、『幽池』だったわ)

 名残りはある。ここはわたしが暮らしていた皇城なのだろう。
 獣人族が治めるようになって、ずいぶんと様変わりしてしまったようだけれど。

「滅びた王朝の姫が池の底から現れるなど、荒唐無稽な話だが。俺が求めることは、ただひとつ」
「……わたしは、なにをすれば」
「俺の子を生め」
「子を……は、い?」
三月(みつき)猶予をやる。満月がもっとも輝く夜──中秋節までに俺の子を宿すことができれば、自由の身にしてやろう」
「もし……叶わなかったら?」
「──その首を噛みちぎる」

 月色の瞳が、鋭い眼光を放つ。
 腕を組みわたしを見据える東宮さまは、本気だ。
 どくん。
 胸が、大きく脈打った。

(わたしが、この方の子を生む……)

 そう考えたら、なんだか……

(わたしが……子を、生む)

 なんだか無性に、胸が震えた。