桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「李花。俺は、おまえの蜜のように甘美な血の味を、知ってしまった」

 広い手のひらが、ほほにふれる。

「俺はもう、おまえのいない世界など耐えられない。おまえが……ほしい」

 吐息が、ふれる。
 月の色を宿した瞳が、こんなに近くにある。
 目頭が熱くなってしまうから、わたしは。

「いまさらですよ」

 と、おどけてみせた。
 驚きに見ひらかれた月色のまなざしが、ふいに伏せられ。

「……んっ」

 しっとりと、呼吸を奪われる。
 それは甘く、とろけるような口づけ。

「宵月、さま……」
「だめだ……まだ」
「んんっ……」

 はじめは恐る恐るふれていたくちびるが、ふたたび重ねられる。
 腰を絡めとられたわたしは、逃げられるはずもなく。
 何度も何度も降り注ぐ深い口づけの雨に、溺れるだけ。
 ……からだが、溶けてしまうかと思った。

「狼族の男は、噛みついた相手の血の味とにおいを、けっして忘れない。どこにいても、つがいを守り抜くために」

 凛と決意に満ちた声音が、追い討ちをかけるように、わたしの胸を震わせる。

「俺のものだ。──おまえだけを愛している、李花」

 それはきっと、この世でもっとも優しい、独占欲。

「わたしも、愛しています──宵月さま」

 飾らない言葉でいい。
 こうしてふれあえることが、奇跡なのだから。

 唯一無二の愛しいひとと、手を取り合って未来を歩む。
 わたしたちの宝物のような物語は、これからも続いてゆく。