桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜


  *  *  *


 淡青の空のもと。
 わたしは宵月さまに手を引かれ、『幽池(ゆうち)』を訪れていた。
 季節は、木々が朱に恥じらいはじめたころ。
 ほのかに色づいた葉が、はらりと水面に舞い落ちる。

「おまえの血をじかに口にしたとき、全身にしみわたる清廉な力を感じた。渇きを潤す、桃の香り──あれが『桃娘(タオニャン)』の持つ、癒やしの力なのだろう」
「宵月さま、お加減のほうは、よろしいのですか?」
「無論だ。俺のことより、自分のからだを労れ」

 中秋節の夜。
 わたしは宵月さまのために、夜もすがら舞った。
 その末に牙を突き立てられ、倒れたのだった。

(ラン)族の毒は、噛みついた相手を三日で死に至らせる猛毒だ」

 宵月さまも、気が気ではなかったはずだ。
 けれど、わたしは死ななかった。

「──奇跡が、起きた」

 七日七晩をへて、目覚めたのだ。

「おまえが、俺を呪いから解き放ってくれた」
「宵月さま……」
「ありがとう、李花……っ!」

 感極まったように、宵月さまに抱きすくめられる。

「ふふ、苦しいです」
「……心配なんだ。おまえがまた、どこかへ行ってしまわないかと」

 わたしが目覚めてからというもの。
 宵月さまは、ひとときもそばを離れようとしなかった。
 四蓮さまも「仕方ないやつだなー」と呆れつつも、それを咎めることはしない。