桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜


  *  *  *


『李花は筋がいいわね』
『でも、うまくおどれない……』

 身軽さだけが取り柄だった。
 だけど、母のように優雅で華やかな舞にはほど遠くて。

『どうしたら、母さまみたいにおどれるの?』

 きっと泣きそうな顔をしていたと思う。
 そんなわたしの頭を優しくなでながら、母は言った。

『大切なひとを、思い浮かべてみて』
『たいせつな、ひと……?』
『そう。舞はね、見てくれるだれかがいるからこそ、意味を持つの。李花は、だれに舞を届けたいの?』
『……わかんない』

 当然だ。
 母の舞に憧れて、やってみたい、うまくなりたいと思った。
 そんな漠然とした理由しか、思い浮かばなかったから。

『大丈夫。李花もいつか、きっとわかる日が来るわ』
『ほんとうに……?』
『えぇ、きっと』

 母の言葉は、いつだって、愛情に満ちあふれていた。
 大切な存在を胸に宿しているから、どんな苦境にあっても優しさを失わない強さを持っていたのだ。

『あなたの舞は、心から大切だと思うひとに届けるのよ、李花』

 ……はい、母さま。
 たくさん遠回りをしたけれど。
 その言葉の意味が、いまならわかります。

 ──わたしは今宵、最愛の宵月さまのために、舞う。