桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜


  *  *  *


 ──それが、わたしがここに至るまでの経緯だ。

(池に落ちて、気がついたら百年後の世だったなんて……)

 自分の身に起きたことなのに、信じられない。

「だんまりか。なんにせよ、皇城に忍び込んだ人間を、見過ごすはずもないが」

 草を踏みしめる音がする。
 わたしを逃すまいと、近づく足音だ。

「小娘」
「っひ……!」

 唐突にのぞき込まれ、びくんと肩が跳ねた。
 間近に迫って、ようやく相手の容姿が見て取れる。

(夜色の髪に、月のような黄金の瞳……)

 美しいひとだった。
 美しくて、冷たい瞳をしたひと……

「おまえ──その淡い髪は」

 そこで、怪訝な顔をされる。
 わたしを見つめた彼が、すん、と首すじを嗅いだ。

「やはり甘い香りがする。もしや、『桃娘(タオニャン)』か」
「たお……?」
「よく見てみろ」

 池を指さされ、つられて水面をのぞき込む。
 そして、絶句した。

(そんな……これが、わたし……?)

 老婆のようだと嘲笑われた白い髪が、淡く色づいていたのだ。
 さながら、桃の花のように。

「月夜に池から現れた謎の娘。なるほど、伝説に謳われた乙女にふさわしい」

 あぜんとするわたしに、黒髪の青年が言い放った。

「おまえの身柄は俺があずかる。この、宵月(シャオユェ)がな」

 それがわたしにとっての救済なのか、死刑宣告なのか。
 わかるはずも、なかった。