桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

 ふわりと、白金の髪がひたいをかすめる。
 紫水晶の輝きに、吸い込まれてしまいそう。

「俺を選んで──」

 吐息が、ふれる。
 近づくくちびるが、わたしのくちびるに重なり──

『──李花』

 重なることは、なかった。
 すんでのところで、わたしが押しとどめたから。

「ごめんなさい……できません」
「……どうして? そんなに辛そうなのに」
「自分でも、不思議です……」

 ただひとつ、たしかなことは。

『堂々としていろ。おまえは俺の妃なのだから』

 宵月さまは、わたしを認めて、必要としてくださった。
 そうだ。
 そんな宵月さまだからこそ、わたしは。

「お慕いしているんです……!」

 寄り添うぬくもりを知ってしまった。
 もう、孤独なあのころには戻りたくない。

「宵月さまと、離れたくない……っ!」

 あぁ……わたしは。
 とんでもなく、貪欲になってしまったみたいだ。

「……そっか」

 ぽんと、頭に手がのせられる。

「その涙をぬぐってあげるのは、俺の役割じゃないんだよな」
「……四蓮、さま……?」

 にじむ視界に、四蓮さまの笑みが映る。
 夕凪のように、穏やかで、やさしい笑みだった。

「健気な李花ちゃんに、助言をひとつ。……宵月が意地になってるのは、きみのことが大事だから」
「わたし、が……」
「『守りたい』って気持ちが強すぎて、まわりが見えなくなってる。あいつ不器用だからさ、愛情表現が下手くそなの」
「……!」

 もしかして、最初から?
 それを伝えるために、四蓮さまはここに……

「だからね、李花ちゃんが、あいつの目を覚まさせてやってくれる?」

 わたしはもう、独りじゃない。
 あれこれ悲観するのは、もうおしまい。

「宵月さまと、お話をさせてください」

 独りで背負わないでほしい、と。
 伝えなくちゃ。
 わたしの想いを、宵月さまに。

「東宮妃さまの、おおせのままに」

 四蓮さまは、恭しく一礼。
 そしていつものように、いたずらっぽく笑ったのだった。