桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

 さぁさぁと、雨粒のはじける音がする。
 連日降り続く霧雨により、窓の外は灰色に(けぶ)っていた。

「なにやってんだよ、宵月(シャオユェ)のやつ……!」

 わたしの部屋を訪れた四蓮(スーリェン)さまは、憤慨していた。

「自分の妃を、二週間も露骨に無視するか!? あぁもう! あの馬鹿ぶっ飛ばしてくる!」
「四蓮さま! いいのです。気にさわることを言ってしまった、わたしが悪いのです……」

 ──しばらく俺に関わらないでくれ。

 あれから二週間。
 宵月さまは、わたしを一切部屋に立ち入らせない。
 寝所を訪れることもない。

(宵月さまの子を生むことだけが、わたしの存在意義だったのに……それも失ってしまったら)

 わたしはやっぱり、なにも残せず、何者にもなれない。
 せっかく持ってきていただいた朝食も、口に運ぶ気になれなかった。

「ねぇ、李花(リーファ)ちゃん」

 うなだれていたわたしは、間近で聞こえた声にはっとする。
 四蓮さまが、わたしをのぞき込んでいた、
 いつになく真剣な面持ちだ。

「俺にしとかない?」
「はい……?」
(マオ)族は女児が生まれにくい。だから、女の子を大事にするんだ。お姫さまみたいにね」

 困惑するわたしを逃すまいと、しなやかな手が、わたしの手の甲に重ねられる。

「もう見てられない。俺のお嫁さんになって。あの馬鹿なんかより、ずっと李花ちゃんを大事にする」

 ……本気だ。
 四蓮さまは、本気でそう言っている。