桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「ご心配には及びません、宵月さま。母は、きちんと人生をまっとうしていた。そのことを知れて、よかった」
「李花……だが」
「『桃娘』のことも、朗報でした。わたしに癒やしの力があるなら、宵月さまの呪いを、とくことができるかもしれませんし──」
「ばかを言うな! それがどういう意味か、わかって言っているのか!?」

 ……えぇ、わかっています。
 傷や病を治すには、『桃娘』の血が必要。
 さらに代償として、命を失うことになると。

「……もとより、三月(みつき)のあいだに子が宿らねば、朽ち果てる身。それならば、宵月さまのために命を捧げることこそが、本望でございます」
「俺は、そんな言葉が聞きたいんじゃないっ!」

 ダンッと、鈍い音が鳴り響く。
 壁を殴りつけた宵月さまは、肩で息をしている。
 ……宵月さまが、こんなに取り乱すなんて。

「俺が悪かった……おまえのことをよく知ろうともせず、契約などさせたから……」
「宵月さま、」
「もういい! おまえを失うくらいなら、子など要らない!」

 ぱしり、と。
 伸ばした手は、振り払われてしまった。

「これ以上は我慢がきかない。しばらく俺に関わらないでくれ。……頼む」

 絞り出すように告げて……
 くちびるを噛みしめた宵月さまは、足早に部屋を去った。
 わたしはといえば。

「宵月さま……そんな……」

 拒絶されたという事実に、ただ打ちひしがれるだけだった。