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──いいか、宵月。
これから話すことは、私がたしかに経験したことだ。
私は字が書けないから、おまえがしかと記してほしい。
私が彼女に出会ったのは、まだ若かったころ。
身寄りのない獣人の若造だ。
稼ぎがあるはずもない。
仕方なく人に扮し、下級武官として皇城につとめていた。
あぁ、わかっている。
そのときはまだ、人の世の最盛期。
柳王朝の時代だ。
獣人だとばれたなら、私は投獄されていただろう。
獣人であるというだけで。そんなばかげた時代だった。
あるとき。
運の悪いことに、出征地で病をもらってきてね。
流行り病だった。
皇城では、病人は隔離される。
まるで罪人のごとくね。
この牢屋のような場所で、死ぬのか……
そう思ったよ。
そんなとき、彼女が──李霞がやってきたんだ。
李霞は私に、ひと言だけ告げた。
「私の血を、お飲みなさい」……と。
意味がわからなかった。
けれど、彼女の放つ甘い香りに逆らえず。
気づけば、私は李霞の首に牙を突き立てていた。
李霞の血は、みずみずしい果実の味がした。
熟した桃にかじりついたときのような。
私をむしばむ病は、たちどころに消え去った。
そこで私は気づいたんだ。
李霞は、伝説の乙女、『桃娘』の血を引く娘なのだと。
あぁ、その話はよく知っていたとも。
私も、かつては雪深い地で暮らしていたから。

