桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜


  *  *  *


 鼻を刺すようなにおいがする。
 これは……薬草のにおい?

「……李花ちゃん!」

 ぼんやりとした視界に真っ先に映ったのは、まばゆい白金の髪に、紫水晶の瞳をした美青年。

「……四蓮、さま?」
「よかった、目が覚めて……!」
「わたし、どうして……」
「李花ちゃんね、池に落ちたんだよ。覚えてる?」
「池に……あっ」

 四蓮さまの言葉に、わたしはピシリとからだが凍りつくのを感じた。

「母さまの領巾(ひれ)がなくなって、慌ててさがして、それで……!」
「お母さんの形見ならここにある。安心して」

 顔面蒼白だろうわたしに、四蓮さまはきれいに畳まれた領巾を差し出した。

「これっ……!」
「拾ったのは宵月。池に落ちた李花ちゃんを助けたのもね」
「宵月さまが……」
「李花ちゃん、なにか起きたら、まず俺たちに教えてね? 高熱を出して、三日間寝込んでたんだから」
「……ごめんなさい」

 勝手な真似をして、迷惑をかけてしまった。

「責めてるわけじゃない。きみになにかあったら、俺たちも悲しいから。さ、まだ本調子じゃないでしょ。これ飲んで」
「ありがとう、ございます……」

 四蓮さまが煎じてくれた薬湯を飲み下す。
 とろりとした液体が、咽頭を滑り落ちた。
 胸が悶々とするのは、薬が苦いからじゃない。

「あの……宵月さまは、どちらに?」
「宵月ね。それならさっき、出ていったけど」

 四蓮さまはため息をついて、部屋の入り口を指でさし示す。
 目を向けて、首をかしげていると──

「──だれの許しがあって、この部屋を訪れるか」

 宵月さまの声が、響いた。
 氷よりも冷たい声だ。