桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「嫌な予感がしてたまらない……」

 そうだな。
 嫌な予感というものは、やけによく当たる。

「悪い、目を離した俺の責任──」
「あれこれ考えるのは後だ」
「──宵月!」

 追い立てられるように、書斎を飛び出す。

(どこだ……どこにいる、李花!)

 嗅覚を研ぎ澄ませ、彼女の痕跡をさぐる。
 回廊を駆けて駆けて駆けて。
 ふわり。
 甘い香りが、ふいに庭院(にわ)からただよってくる。

「李花!」

 すぐさま駆けつけた庭院に、李花の姿を見つけた。
 そして、戦慄する。

「なにを……っ!」

 裸足になった李花が、ぺたり、ぺたりと、池に向かっていたのだ。

「かあさま……」

 虚ろな視線の先にあるもの──
 枯れ枝に結びつけられた布のようなものが、池に浮いていた。

 ──母さまは、舞が得意なひとだったので。

 その瞬間、すべてを理解する。

「──李花ッ!」

 俺が叫ぶのと、池に浸かった李花が体勢を崩すのは、同時だった。
 水しぶきに呑まれる李花を目にしたら、頭が真っ白になり。

 ──それからのことは、よく覚えていない。