桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「おまえの甘い香りは、俺をおかしくさせる……」
「ん……っ」

 かすれた声でつぶやいた直後。
 宵月さまは、わたしに口づけた。
 わたしの口を覆った、手のひら越しに。

(どうして……?)

 温度のない口づけが、もどかしくてたまらない。

「子作りをするつもりはない」

 宵月さまは、静かな声音で、わたしに現実を突きつける。

「おまえの人生を背負うには、俺はおまえに関して無知すぎる」
「…………え」

 かと思えば。
 続くひと言で、わたしの心をつなぎとめて。

「俺は、おまえのことが知りたい」

 月色のまなざしに、射止められてしまう。

「おまえのことを教えてくれ、李花」

 ──宵月さまのことが、知りたい。

 ……あぁ。
 どうしよう。

(宵月さまも、わたしと同じ気持ちでいてくれた……)

 こんなにうれしいことって、ない。
 胸が、魂が、震える。

「ごめんなさい、わたし……なにを言えば、いいのか……」
「べつになんでもいい。おまえが好きなものとか、嫌いなものとか」

 感極まって涙ぐむわたしを、宵月さまは急かさない。
 向かいあうように寝ころんで、大きな手のひらでわたしの背をさするだけだ。