桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

 宵月(シャオユェ)さまといえば、冷静沈着。
 めったに声を荒らげることのないお方だ。
 そんな彼が、揺れ動く月色の瞳で、落ち着きなくわたしを見下ろしている。

「おまえは、ちいさいだろうが」
「ちびで痩せっぽちなのは、自覚しておりますが……」
「そうではなく! 野に咲く花のように、気づけば手折(たお)ってしまいそうで……」
「……?」
「要は俺がふれると壊れる! そう思ってふれずにいただけだ、悪いか!」

 一瞬、なにを言われたのかわからず。
 宵月さまの言葉をゆっくり理解して、こそばゆくなった。

「ふふ」
「……なぜ笑う」
「ほっとしたんです」

 嫌われたわけじゃなくて、よかった。

「野に咲く花は、案外生命力が強いんです」

 手を伸ばし、宵月さまのほほにふれる。

「好きにしてくださって、かまいませんから……」

 宵月さまになら、すべてをさらけ出せる。
 ……ふれてほしい。

「俺と口づけると……死ぬぞ」

 それなのに、この期に及んでそんなことをおっしゃるから。

「それも、本望です」

 わたしも頑として、譲らなかった。

「ばかなやつ……」

 言葉とは裏腹に、優しい声音だった。
 ふいに月色の視線を伏せた宵月さまが、顔を近づけてくる。
 ……ふに、と。
 やわらかいものが、わたしの右のほほにふれた。