桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「俺は獣人族でも最強と謳われる狼族の長だぞ。その俺に啖呵を切ったおまえが、なにを恐れることがある」
「宵月さま……」
「胸を張れ、堂々としていろ。おまえは俺の妃なのだから」
「っ……」

 あぁ……やっぱり。
 宵月さまは厳しくも、優しい。

「はい……宵月さま」
「ならばよし」

 そしてふいにはにかんで、わたしの胸を高鳴らせる。

(……熱い)

 ほほが火照るのが、わかる。

「水を差すようで申し訳ないけど、俺の存在忘れないでね、おふたりさん」
「すっ……四蓮さま!?」
「おまえはどこからでもニョキニョキ生えてくるな、(たけのこ)か」
「お茶をお淹れしましたー、はいどうぞ!」

 宵月さまにも遠慮がない軽妙な言葉遣い。
 これが、四蓮さまの素のお顔らしい。
 慣れた手つきで四蓮さまが卓に置いた茶杯(ゆのみ)からは、かぐわしい香りがただよう。
 
茉莉花(ジャスミン)のいい香り……わたし、四蓮さまの花茶、すきです」
「愛の告白かな……結婚しちゃう?」
「そ、そんなつもりは……!」
「こう見えて俺、けっこう尽くす男だよー?」
「──四蓮」
「許されてるんだからいいじゃん、重婚」
「それは(マオ)族に限った話だろうが」
「女児が生まれにくくて困ってるんですぅ、猫族(おれたち)が女の子を大事にするのは本当ですぅ」

 くちびるを尖らせながら、四蓮さまも椅子に腰かける。
 そして卓にひじをついて、おやつの包子(パオズ)をつまみ始めた。