桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

 ──あるところに、心優しい少女がいました。

 少女は、どんな傷や病もたちどころに治す不思議な力で、あらゆるものに手を差し伸べます。

 やがて、桃の実のように淡い髪を持つ少女を、ひとびとはこう呼ぶようになりました。

桃娘(タオニャン)』──と。


「数百年をこえて受け継がれる物語、『桃娘伝説』でした。ご清聴ありがとうございました、 東宮妃(とうぐうひ)さま」
「あの、四蓮(スーリェン)さま」
「どうかなさいましたか、東宮妃さま」
「その呼び方、なんだか落ち着かなくて……ふだん通りに接してくださって大丈夫です」
「ではお言葉に甘えて。李花(リーファ)ちゃんはやさしいねー!」
「貴様は馴れ馴れしすぎだ、馬鹿者」

 わたしが(ラン)族の治める東宮にやってきて、早ひと月がたった。
 なにか進展があったかと問われると──現状がこれだ。

「あのなぁ、俺を李花ちゃんのお世話係にしたのは、宵月(シャオユェ)だろ? 真面目に仕事してるだけなのに睨まなくてもよくなーい?」
「喉が渇いた。茶を汲んでこい」
「はい出た暴君。李花ちゃんに嫌われても知らないぞー!」
「余計な世話だ」

 見ての通り。
 四蓮さまのお話を聞いていたら、宵月さまと喧嘩を始めてしまった。

 東宮妃になり、しばらく。
 午後になると、わたしはしばしば宵月さまのお部屋を訪れていた。
「どうせお茶するなら、人数が多いほうがいいでしょ!」という四蓮さまの発案だ。
 宵月さまも政務のかたわら、わたしに付き合ってくださる。
 ……とはいえ。

「やっぱりわたしがいると、お邪魔になってしまうわ……」
「……あのな、李花」

 ため息が聞こえた。
 かと思えば、宵月さまが席を立ち、わたしのいる窓際の卓へやってきて。

「うつむくな! 背すじを伸ばせ!」
「ひゃ……!?」

 一喝。
 わたしは驚きのあまり、椅子から飛び上がってしまう。