桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「俺は……呪われている。俺には、毒がある」
「毒……ですか?」
「唾液に含まれる猛毒だ。(ラン)族の雄だけが持つ」

 ぽつりぽつり。
 時おり詰まりながら、宵月さまは打ち明けてくれる。

「だが、俺たち狼族には習性があって」

 そして、衝撃的な事実が告げられる。

「狼族の雄は、愛情表現で、つがいに噛みつくんだ。これは本能によるもの。けっして抗えない」
「それは、つまり……」
「俺は……愛した相手を、死に至らしめてしまう。心の底から愛しい者を、愛することができないんだ……っ!」

 宵月さまは整った顔を歪め、夜色の髪をくしゃりと掻きむしる。

 ──狼族は呪われている。
 ──狼族の男の子を宿した女は、死ぬ。

 すべてが、つながったようだった。

「狼族として、俺は後世に血を残さねばならない。だが、愛する者とつがいにはなれない。それなら、おまえを利用すればいいと思った」
「宵月さま……」
「憎き人間が相手なら、心を動かされることはない。良心も痛まない。ただ子を生ませるだけの(はら)なのだから、おまえが拒絶するなら、恐怖で従わせればいいと……思って、いたのに」

 しだいに、宵月さまの顔が悲痛に歪んでゆく。

「もうやめてくれ。意地汚く利用しようとしたのは俺なんだから……これ以上、俺の心に入ってこないでくれ……」

 手のひらで顔を覆って、「見ないでくれ」と。
 わかってる。無理強いすべきじゃないって。
 それでも、このまま宵月さまを放っておくなんて、わたしにはできなかった。

(わたし……宵月さまのこと、冷たいひとだと思ってた)

 でも、そうじゃなかった。
 大切なことが、見えていなかった。