桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「東宮さま──宵月(シャオユェ)さま!」

 名を呼んだとたん、半狂乱になっていた彼がはたと息を止める。
 つかんだ手は、振り払われなかった。

「なぜ……俺にかまう」
「宵月さまは、わたしのかわりに、侍女を怒ってくださいました」
「……俺はただ、怠惰にかまけた配下を罰しただけだ」
「そうですね。他意などないと、わたしもすこし寂しく感じていました。でも、こうして宵月さまと話していて、気づいたんです」
「……なにを」
「宵月さまが、寂しがりやだということです。わたしも同じだからわかります」
「おなじ……?」

 わたしの言葉を反芻(はんすう)する宵月さまは、幼く見える。
 
「母さまにかまってほしくて、いじけていたわたしと同じです」

 ──ごめんね、李花(リーファ)。今度こそ、舞を教えてあげるわ。
 ──いいもん、ひとりでお稽古できるもん。

 いまとなっては、過ぎ去ったあのころ。
 本当は一緒にいたいのに、言えなくて。

「それって、『心配させたくない』って気持ちが、根っこにあったからなんです」

 手のひらで宵月さまのほほを包み込み、まっすぐに視線を合わせる。
 夢中で語るわたしを、宵月さまが呆けたように見つめていた。

「わたしみたいに、『あのとき素直に言えばよかった』って、後悔してほしくないです」
「…………」
「だから、ほんのちょっとでもいいです。わたしに、宵月さまの気持ちを教えてもらえますか?」

 長い長い、沈黙。
 視線を伏せた宵月さまが、ためらって、それでも口をひらく。