桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「広い寝台に、あたたかい食事、きれいな衣……本当に、いろんなものを与えていただきました」
「俺がここへ来てから、身を強ばらせていたくせに」
「たしかに、未経験ゆえ緊張はしておりますけれど……東宮さまに感謝こそすれ、恐れを抱くなどあり得ません」
「……おまえ」
「わたしがここにいるのは、あなたさまとの子を望んでいるからです。わたしも、東宮さまにお返しがしたいのです」
「──ッ!」

 はじかれたように、東宮さまがはね起きる。
 わたしを映した月色の瞳は、驚愕と戸惑いで揺れていた。

「また、世迷い言を……」

 東宮さまが、寝台から足を投げ出そうとする。

「お待ちください……!」

 ここで終わりにしたくない。
 その一心で、東宮さまの腕をつかんで引きとめる。 

「気づいていらっしゃいますか? 東宮さまは威嚇ばかりで、乱暴は一切なさっておりません」
「……やめろ」
「わたしには、東宮さまがわざと嫌われようとしているように見えました」
「やめろッ!」

 怒号が夜闇を揺らす。
 やがて静けさが戻った部屋で、橙の灯明が、頼りない人影を映し出す。

「嘘をつくな。どうせおまえも俺を穢らわしいと思っているんだろう」
「どうか、落ち着いて」
「おまえも、俺を恐れて逃げ出すんだろう! 俺が呪われているから!」
「東宮さま!」

 なにを言っても、届かない。聞こうとしてくれない。
 まるで、頑なになっているこどものよう。
 そのさまが、記憶のなかの幼いわたしに、重なる。

(あぁ、そうか……彼は)

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