桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「滑稽だな。俺たちの祖先を(さげす)み、(なぶ)り、食いものにしてきた人間が、手も足も出せないとは」
「東宮、さま……」
「命乞いをしてみろ。さもなくば、醜い獣に手酷く犯されるぞ」

 ……圧倒された。
 東宮さまの気迫は、本物だった。
 だからこそ。

「無礼を承知で、申し上げます」
「言ってみろ」
「東宮さまが人間(わたし)を憎むのは、至極まっとうなことでは?」
「……なに?」

 永い歴史のなか、獣人は酷く迫害されてきた。
 その憎悪が、たったの百年そこらで払拭できるものとも思えない。
 ちっぽけなわたしに、東宮さまのお怒りを否定する権利はない。
 けれど。

「東宮さまは、ひとつかん違いをしておられます。わたしが、嫌々ここにいるということです」
「よもや、違うとでも?」
「違います」

 これまでのわたしなら、なにも言わず、ただ流れに身をまかせていただろう。
 余計なことを口走れば、折檻されるとわかっていたから。

『ほかに聞きたいことは』

 東宮さまは違った。
 わたしの意思を問い、意見することを認めてくださった。
 だからわたしは思ったの。

「東宮さまには、親身にしていただきました。わたしがここに来てから、ずっと」

 わたしの気持ちを、この方にお伝えしたいって。