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真紅の衣裳をまとい、盃を交わす。
かたちばかりの婚礼を終えれば、いよいよ後戻りはできない。
紺青の闇に、欠けた月が浮かぶ夜ふけ。
香がただよう部屋にて、東宮さまを待つ。
(愛されなくてもいい)
身寄りも教養もない。
わたしにあるのは、この身ひとつだけ。
(契約のためだけの関係だとしても……わたしは)
覚悟は、決まった。
そうして迎えた初夜。
「精一杯、つとめさせていただき……」
「──痩せ我慢はよせ」
部屋を訪れた東宮さまが、抑揚のない声で遮る。
とんっと肩を押され、わたしは、あっけなく寝台へ沈み込んでしまった。
「本当は恐ろしいんだろう、俺が」
寝台が軋み、東宮さまに組み敷かれる。
「恐ろしい……?」
「まだ虚勢を張るつもりか」
わたしを見下ろす月色の瞳には、苛立ちがにじんでいた。
「狼は月明かりに狂う。今宵の俺は高ぶっているからな。嘘偽りは吐かないほうが身のためだぞ」
「っ……!」
まばたきのうちに、両手首が寝台へ縫いとめられる。
「いまさら逃げられると思うなよ。おまえの命は、俺がにぎっているのだからな」
東宮さまの目は血走り、口のすきまからは鋭い牙がのぞく。
そしてなにより。ひとならざる獣の耳が、夜色の毛を逆立てていた。
(これが、東宮さまの真のお姿……)
まさしく、ひとの姿をした獣だ。
ぞわぞわと、肌が粟立つのを感じる。

