桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

 翌朝。
 この日の目覚めは、またすこし違ったものだった。

「おはようございます。昨晩はよくお眠りになられましたか?」
「おかげさまで……?」

 にこにこ、にこにこ。
 やたら満面の笑みを浮かべた美男が、わたしの部屋にやってきた。

「申し遅れました、僕は四蓮(スーリェン)といいます。いや〜、昨日は宵月(シャオユェ)、じゃなかった東宮さまがブチ切れて大変でしたね。まぁ侍女たちの自業自得なんですけどね!」
「は、はぁ……」
「そんなこんなで、李花(リーファ)さまのお世話をおおせつかりました。あ、東宮さまにパシられてるけど、僕は白猫の(マオ)族なんです。数少ない友だち代表ってことで! 東宮さまの!」
「よろしくお願いします……?」
「こちらこそ〜!」

 四蓮さまは、白金の髪がまぶしい美男だった。
 同じ美男でも、おしゃべりなところは東宮さまと正反対だ。

(東宮さま……あんなにお怒りになるなんて)

 全身ずぶ濡れで湯殿から出てきたわたしを見て、問答無用で侍女たちを呼びつけて。

『──この娘の侍女を呼べ、即刻だ』

 ……はじめてだった。

(だれかに気にかけてもらったのは、はじめて)

 だから、かん違いしてしまいそうになる。

(……東宮さまがわたしを気遣ってくださったのは、べつに好意があるからじゃない)

 わたしたちは、昨日今日知り合った間柄。
 契約ありきの結婚をするのだから。
 ……愛なんてもの、求めてはいけない。

「さてと。朝食の前に白湯をお持ちしますね。座って座って!」
「あ……はい」

 うながされるまま長椅子に腰かければ、あたたかい白湯が運ばれてくる。 
 四蓮さまはてきぱきとお世話をしてくださる。
 わたしも気を取り直して、茶杯(ゆのみ)を受け取った。

「これは世間話なんですけどね。僕は東宮さまと同い年で、今年で二十四なんです」
「わたしは十八です」
「結婚適齢期ですねぇ、お互い! ま、僕は相手がいないんですけど!」
「またまた……」

 他愛のない雑談だったはずだ。
 だから。

「──ふぅん。なるほどね」

 ふいに、品定めするようなまなざしを感じたのは、たぶん気のせいだろう。