桃娘蜜月伝〜虐げられた姫は、時をこえ狼帝の孤独を溶かす〜

「ばかになんかしてません」
「それなら、生贄らしくおりこうになさっていたら!?」
「生贄……といいますと」
「狼族の男の子を宿した女はね、死ぬのよ。だれひとり、例外なくね!」
「それはおかしいですね」
「なんですって?」
「三月以内に子を宿さなければ、わたしは首を噛みちぎられ死ぬのだそうです。けれど、子を宿しても死ぬというのなら、契約の意味がない。東宮さまが嘘をついていた、ということになります」
「それはっ……!」
「まだ、お話には続きがあるのではないですか?」
「人間風情が、知らなくていいことよッ!」

 桶を投げつけられる。
 それは左のほほをかすめ、背後の壁に激突。

「もう行きましょう」
「ふんっ!」

 憤慨した侍女たちは、鼻息も荒く湯殿を飛び出してゆく。

「わたしはここでも、歓迎されないのね……」

 また置き去りにされてしまった。
 全身から生温かい雫をしたたらせながら部屋に戻ろうとして、ぎょっとする。
 だって、だれが予想できるっていうの?

「なんだ、その格好は」

 湯殿からの帰り道で、くだんの東宮さまと遭遇するなんて。
 いえ、この宮の主は彼なのだから、どこにいてもおかしくはないのだけれど。

「──世話役の侍女はどうした」

 そのときの東宮さまといったら、もう。
 声は地を這うように低く、阿修羅のような形相だった。