ガチ恋王子は結ばれたい

「大きくなったら結婚して!」
これが初めて、彼から貰った言葉。
「わかった、約束する。大人になったら……今度は、僕から言うね?」
これがその時、彼にした精一杯の返事。
この日のことを永遠に覚えている。ずっと、宝物のように胸にしまって。

王子くんに「一緒にいられない」と言ってしまった日の昼休み。俺__波止場は弁当箱を抱え、音楽準備室の隅っこに座り込んでいた。
ここは空調がなく、埃っぽく、誰かとひっそり過ごすには狭く、ほとんど物置になっている。だからいつも無人だ。
俺は教室から王子くんが追いかけてこないか警戒しつつ、ポケットから手紙を取り出した。
「どうしよう……」
薄ピンク色の上品な便箋には細かくしなやかな文字で「三国 円より」と書いてある。
これは昨日同じ委員会の三国さんに渡されたもので、俺の目下の悩みの種だ。
「……どうしよう」
思わず手に力がこもった。手紙にしわがよる。慌てて手のひらで擦り、しわを綺麗に伸ばした。元通りになった手紙を見てほっと息をついた。
「はぁ……」
元通りになったものの、これをどうするかは決められない。
とりあえず汚れてはいけないので後ほどミニファイルにでも入れようと思いながら、もう一度ポケットにしまった。
薄暗いこの部屋で思い出すのは、王子くんのこと。彼のことだけだ。
彼は俺の幼馴染。そしてきらきら輝く、唯一無二の王子様。
王子くんと初めて会った時のことを、今も覚えている。
この世界にこんなに綺麗な子がいるのかとびっくりしたし、その後に続いた「結婚して」にもっとびっくりさせられた。
でも、嬉しかった。嬉しくて嬉しくて、幼かった俺はその喜びを今度は自分から与えたくて、この後どうなるかも知らずに「僕から言うね」なんて言った。
それからは王子くんに釣り合う人間になれるよう、努力した。両親が「うちの子が別人になった!」と言うくらいには運動とか、勉強とかに励んだ。
けれどどれだけ頑張っても、王子くんの隣に並ぶには足りなかった。
王子くんは時間を重ねるにつれてもっと綺麗に、もっと完璧になっていく。
対して俺は才能がなくて、不器用で、頑張っても頑張っても平均より少し上程度にしかなれなかった。
王子くんは王子様だった。でも、俺は王子様じゃなかったのだ。
成長するにつれて、俺はそれに気が付いてしまった。
王子様じゃないから彼と対応になれない。でも今更後戻り出来ない。俺はこの十二年で王子くんがいない人生なんて考えられないくらい、彼のことを愛してしまっていた。
でも俺が王子様になれなくても王子くんは俺を隣に置いてくれた。それが嬉しかった。
きっともう彼は約束なんて覚えていないだろう。でも、まだ隣にいたい。
いつか、いつかきっとこの関係に蹴りをつけるから見逃して欲しい。
けれどいつかは、もうすぐそこまで迫っているのかもしれない。
俺は「一緒にいられない」なんて言ってしまった。どうすればいいかわからなくて、彼のそばにいるのが正解ではない気がしてしまって。
「…………」
苦しくなって、蹲るように丸まった。目を閉じると視界から光が消え、少しだけ息がしやすくなる。
きっと王子くんは今頃、他の誰かとお弁当を食べているんだろう。王子くんは人気者だ。誰も、彼を一人になんてしない。
そう思うと寂しくて、もやもやして、やっぱり俺なんかじゃ王子くんの隣に立つには足りないなと思った。
手紙が入ったポケットを撫でる。この手紙にどう向き合うべきか、決められなかった。