ガチ恋王子は結ばれたい

「おはよう、宮子(みやこ)」
教室に入ってすぐ、俺は教室の隅に座る少女の席に向かう。
「なぁ、聞いてくれよ。波止場が朝から俺のこと綺麗って言ってくれて、しかも笑いかけたら照れててさぁ。マジで脈アリだよな。な、な?」
話しかけると彼女はうんざりした面持ちでこちらを見上げた。
教室は朝のざわめきで満ちており、程よくうるさい。俺たちの声なんて誰にも聞こえないほどに。
だから、好きなだけ本性を披露出来る。宮子はため息をついたあと、俺の顔面を凝視した。
「あー、はいはい。脈アリ脈アリ。売るほどある」
「売る分なんてねぇよ。全部俺の」
かっこよかった波止場メモリアルを話すが、それが終わると次に浮かんでくるのは「俺なんかに告白してくれる女の子なんていないよ」だ。
この話をしようと思ったが、宮子が俺の顔面をじっと見つめてくる。
「てか、今日、メイク調子いいじゃん。もしかして例の新しい下地試した? いいなぁ、ちょっと高いけどあたしも買おうかなぁ。でもあたしの肌的に青みが強すぎる気もするんだよね」
「俺の話、全然聞いてないな……」
ひたすらに俺を見つめ続ける少女はクラスメイトの猫目 宮子(ねこめ みやこ)。男女問わず美形をこよなく愛しており、入学初日の俺に向かって
「うわ、めっちゃ美形! 名前何!? いや、名前なんてどうでもいい! 性格もどうでもいい! あたしと友達なろ! ね、いいでしょ!? 喋んなくていいから、顔だけでいいから!」
と突撃してきた傑物だ。
明け透けすぎて最初はビビったが、メイクにも拘る俺とメイクも愛する彼女は気が合い今では一番の友達だ。
王子様ではない、俺のガチ恋系本性を見せるくらいには。
あとこの学校には三年進級時以外クラス替えがないため、彼女も波止場と同じく二年連続同じクラスである。付き合いが長い。
「だって、皇がする話ってどうせ波止場の話でしょ」
「まさか、俺だってメイクの話くらいするぞ」
「でもあんたがメイクするのって波止場のためじゃん。実質波止場の話じゃんそれ」
はー、と見せつけるようにため息をつかれる。そうしつつも誰かに聞かれないよう、ひそひそと話してくれるところに笑みがこぼれた。
「そりゃ、波止場と結婚して同じ墓に入るのが人生のゴールだからな。仕方ないだろ」
「あんたってほんと、残念系」
彼女は染めた髪を指でねじっている。めっちゃ暇な時にするタイプの仕草だ。
「はぁ、初めて見た時はミステリアス系神秘的王子様美少年見つけたと思ったのに……。まぁあたしは圧倒的外見派だから、中身残念系でも別にいいけど」
「そこまで残念じゃないだろ。王子様の方がウケいいとは思うけどさ」
王子様スマイルを作る。宮子は俺の顔を隅々まで見て、うっとり目を細めた。
「てか、いつまで黙ってんの?」
「何が?」
「ガチ恋オタク本性」
思わぬ質問に王子様スマイルが凍りつく。一瞬の沈黙がおりた。
「そりゃ、波止場と付き合うまでに決まってるじゃん」
「付き合ったら本性晒す気ではあるんだ」
「徐々にだけどな。こう、ちょっとずつ食事の味付け変えて慣らしてくみたいな……」
「毒かよ」
はぁ、と宮子が重々しいため息をつく。ここでふざけて宮子のため息を数えたりしたら、多分もう一回ため息をつかれそうだ。
「……あたし、あんたたちが登校するの見たよ。廊下から」
「俺がファンレター貰うところ、見えてた?」
「うざ。でも、見えてた」
俺はちらりと廊下の窓を見る。あそこからは校門が見えるだろう。彼女は呆れたような視線でこちらをじっと見ていた。
「……波止場も苦労するよね。こいつ変なところでフィルターかかりまくってるし」
「は? なんで波止場?」
「なんでもない、王子様。あんたの話に付き合ってあげてるんだから、昼くらい奢ってよね」
「波止場と食べるから無理だな。一緒に食べたいって言うなら別だけど」
「嫌。挟まりたくない。行かない」
「だよな。っていうかお前、いつも何より俺の自撮りがいいっていつも言ってるだろ。わざわざそう言うってことは、本当は何か別にして欲しいことあるんじゃないか?」
「バレた? 今日の課題教えて」
宮子が課題用のノートを開く。英語の長文読解が全然終わっていなかった。助けて欲しいわけだ。
彼女の課題を手伝いながらさりげなく視線を走らせ、同じ教室でせっせと課題に取り組む波止場を盗み見る。せっかく同じクラスなのだから課題を手伝いたいところだが、彼が望まないなら野暮なのだろう。
波止場はホームルームが始まるまでずっと課題をしていた。捗っているようには見えなかった。