ガチ恋王子は結ばれたい

「って言う訳で、俺たち付き合ったんだよ。結婚の誓いも立てた! はー、ほんと最高。幸せ。俺、今日死んでもいい。それに手も繋いで登校できたし!」
「はいはい。はいはい」
修学旅行が終わり、土日を挟んだ月曜日。俺は朝の教室で宮子に話をしていた。彼女は俺の話なんてこれっぽっちも興味ない顔をして、俺の顔面を眺めている。
「その話、修学旅行が終わったあとの土日で散々聞いたって。通話だけど」
「通話は通話。まだ直接話してなかっただろ?」
「うっわぁ、浮かれてる浮かれてる。うざ」
宮子はそう言って、さっき渡した狐モチーフのアルバムを開いた。
「ま、アルバムは嬉しいかな。そろそろあんたの写真、印刷したいと思ってたし。そうだ、あんたの写真データ印刷所に送っていい? 市販のブロマイドみたいに高画質印刷したいんだけど、コンビニじゃ性能が足りなくて」
「いいけど……」
「やった」
ただのスマホで撮った写真が、そんなすごい印刷に耐えられるのだろうか。ちょっと不安になってきたが、浮き足立つ感情はその不安さえも無条件の喜びでかき消していく。
「ま、何とかなるか」
「今度アクスタ作りたいな。あんたの」
それはちょっと怖い。
そこで近くをうろうろしていた波止場がやって来て、俺たちの顔を覗き込んだ。
「アクスタ?」
「あ、うん。あんたの彼氏のアクスタ、作ってもいい?」
話を何となく聞いていたらしい彼は、それを聞いてほとんど見えない目を輝かせる。
「作れるの!? お、俺も欲しい……!」
「一個より二個作る方が単価安いから、料金払うならあんたの分も頼むけど」
「い、いいの? 俺、猫目さんと全然話したことないけど……」
「いいよ別に。同担でしょ、あたしら」
波止場が「祭壇作るね」と言ってうきうきし始める。俺も波止場のアクスタ欲しい。
「じゃ、皇は高解像度の全身写真撮ってきて。トリミングはあたしのところでやるけど、できるだけ切り抜きやすいよう真緑の背景とかで撮ってきてね」
「どこで撮れるんだよ、それ」
グリーンバック撮影なんてしたこと無い。適当な布でも貼って自宅でやれるだろうか。
いつもより手間のかかるお願いに考え込んでいると、宮子が俺の額を小突いた。
「いいでしょ。これからはあんたの惚気に付き合うんだから、前払いしてよね」
「……はい」
その通り。恐らく彼女には一生こんな感じで逆らえない気がするが、まぁ悪くない。友達って感じだ。
彼女に笑いかけると宮子も笑った。屈託のない、年相応の可愛らしい笑みだった。
「ま、待って」
にこにこしていると、波止場が割って入ってくる。それから俺を見て、宮子を見て、俺を見たあと、椅子に座った俺を突然抱きかかえた。
「え」
波止場の方が身長が高いため、ぶらんと吊り下げられる。抱っこされた猫みたいになった。
「宮子さんとどういう経緯で友達になって今までどういう話してたのか、教えて……」
波止場はぽしょ、と小声でそう問いかけてきた。クラスメイト全員が俺たちを見ていたが、この問い掛けまでは聞こえていないようだ。
「わぁ。前から思ってたけど、やっぱそういうところあるよね」
唯一近くでばっちり聞いていた宮子が呆れの籠った目で俺たちを見ている。
抱き上げられたまま振り返ると、めそめそしている波止場と目が合った。
「波止場、お前って……」
その頭をぽん、と撫でる。柔らかい髪が手の下で心地よく歪んだ。
「結構、寂しがり屋だよな」
付き合ってからというもの、波止場はやたら電話してくるし何処へ行くにもついて来たがる。付き合ってからまだ日が浅くてもそう思えるほどには、めちゃくちゃ気にしてくる。
つまり、波止場も寂しいんだろう。俺だってせっかく付き合えたのだから一秒たりとも離れたくない。手を繋いで授業受けてぇなとか、正直思っちゃっている。
波止場は何故か少し悩む素振りを見せたあと「そうかも……」と消え入りそうな声で言った。
「苦労しそー……。波止場の方が」
宮子が視界の端で死ぬほど呆れている。その理由はよくわからなかったが、触れた波止場の体温が心地よくて、今はなんでもよかった。