ガチ恋王子は結ばれたい

「あのさ……」
散々ボロボロ泣いたあと、俺は波止場を見上げた。彼は鼻をぐすぐす啜りながら首を傾げる。
「俺も本当の事、隠しててごめん」
その言葉にますます首を傾げられた。若干の気恥しさを押し殺し、俺は言葉を続ける。
「だからその、俺はほんとに完璧だけど、内心お前にガチ恋でメロついてて……」
「メロ……?」
今度は反対側に首を傾げられた。全然わかってくれないその姿に、あぁもう好き! となる。
「常に俺と結婚してくれねぇかなーって頭の中で考えてたってこと! スマートに王子様やりながら!」
言ってやれば、波止場は赤面した。首から耳のふちまで真っ赤になり、それからなにか言おうと必死に口を動かす。掠れた声ばっかりが出て、何言ってるのか分からなかった。
「落ち着け」
波止場は必死に頷き、深呼吸してから必死に話す。
「そ、それは嘘じゃない……と思うよ。言ってないだけ……だし。だ、だいたい次は俺の方から告白するって言ったから! だから」
だから、その、あの、と言葉が細切れに続く。視線で優しく続きを促すと、彼は亀みたいに首を引っ込めながら俺の手を握ってくれた。
「あの……。ず、ずっと好きでいてくれてありがとう」
「うん」
「俺に告白してくれる子なんていないって言ってごめん」
「それはそうだな。なんであんなこと言ったんだよ」
「お、王子くんはあの約束なんて覚えてないと思って……」
ぐにゃあと波止場の背が曲がる。顔の赤みはいつまで経っても抜けない。そんなところが恋しく、愛おしく、狂おしい。
「でも、覚えてて欲しい気持ちもあって。だから『告白してくれる女の子はいない』って言ったんだ」
「そっか」
俺の王子様は俺が思うよりずっと気弱だったらしい。俺からの愛が足りないみたいだ。いっぱい注いでやれば、その気弱もいつか自信に満ちるのだろうか。
でも、このままでもちょっとかわいい。 そう思いながら笑って言った。
「そもそも忘れるわけないだろ。俺から結婚しようって言ったんだぞ」
「うん」
波止場もふにゃりと笑った。
「大好き、王子くん。ずっと大切にするね」


こんな感動的な話をしたあと、俺たちは時間に気がついて急いで路地裏から出た。しかし既に日は落ちており、外は真っ暗だった。
ホテルに戻ると夕食の時間ぎりぎりで、先生に怒られながら急いでホテルのレストランへ向かった。
俺は目元を擦らないようにしていたので見た目に変化はなかったが、散々擦っていた波止場の目元は真っ赤だった。そのせいでレストランでは色んな人に、特に学級委員長に心配された。
レストランでこっそり「そういえば、お前のジャージ、勝手に着たんだけど」というと波止場は驚いた顔をして「あれ、夢じゃなかったんだ。俺の欲望そのものみたいな光景だったから、白昼夢かと思って」と言っていた。今度もう一回着ようと決めた。
それから夕食を終えて、俺たちはすぐ三国さんを捕まえた。
「ごめん、三国さん。俺、三国さんが預けてくれた手紙……渡してなかったんだ」
自分の手元に返ってきた手紙を見て、三国さんは微笑んだ。
「王子くんから反応がないから、多分渡してないんだろうなって思ってたよ。こっちこそ、ごめんなさい。港くんの気持ちも知らず、嫌なお願いしちゃったよね」
「そんな……。でも、渡さなかった俺も悪いから」
頭を下げあったあと、三国さんはこちらを見た。
「港くんが良かったら、皇くんからお返事もらってもいい?」
波止場に確認を取るということは、なんとなく俺たちの間にある空気に気がついていたんだろう。宮子が言った「三国さんは賢い」の意味がよくわかった。
「い、いい……よ」
波止場が頷く。そうして俺はお友達としてならよろしくと言った。
「えっ」
波止場がすごくショックを受けた顔をした。三国さんがそれを見てくすくす笑い、俺に言葉をかけた。
「私、あんまりメイクに詳しくなくて。良かったら教えてほしいな。もちろん、港くんが許してくれる範囲で」
その声色は非常に涼やかで、かわいくて、彼女がモテる理由がまたひとつわかった気がした。
それから二人で風呂に入り、同じベッドに入った。そこで波止場が思い出したように俺を抱き寄せ、問いかける。
「あの、俺たちって、その」
またもごもご言い始めたので、ちょっと意地悪くその口元をつつく。
「はっきり言えよ。俺とお前で解釈違ってたら困るだろ?」
「つ、付き合ってるってことで、いい?」
その言葉に頷いた。波止場がしくしく泣き始めたので、泣き止ませるのが大変だった。
三日目は二人で手を繋ぎ京都を観光した。
人生でいちばん楽しい旅行だった。