ガチ恋王子は結ばれたい

京都駅についてすぐ、俺たちは指定の店で昼食のにしんそばを食べた。魚は甘く煮詰められており、キリッとした塩味のある出汁に良く合う。美味い。
「おいしいね、王子くん」
何より美味しそうに食べて笑う波止場は大変かわいく、胸がいっぱいになった。
食べ終わればバスに乗って移動だ。俺たち二班は希望通り二番コースになった。昼食後に清水寺に行き、伏見稲荷大社に行くコースだ。
わいわい賑わうバスが清水寺参道付近で止まる。大きな荷物はバスに置いて行けますよ、と運転手さんが言った。言葉に甘えてリュックだけ持って降りる。
「わ、賑わってるね……」
隣に来た波止場が楽しそうにそう言う。今は見えないが、多分彼の瞳は輝いているのだろう。参道には観光客向けの店が並び、たくさんの人が行き交っていた。
「とりあえず、先に清水寺の方に行こうぜ。参道で時間使いすぎて本命に行けなかったら駄目だし」
波止場を探るのも大事だが、修学旅行を楽しむのも大事だ。
一応班行動なので他の班員と行こうと周囲を見回したが、彼らは既に清水寺目指して参道をのぼっていた。
「はや」
「はやいね」
二人で顔を見合わせ、参道をのぼる。カラフルな店を覗きつつ上へ上へと向かうが、結構距離がある。
「近そうだと思ったけど、意外と遠いんだね」
「な。なんか、不思議な感じ」
思ってもなかった長距離移動を前に少し、喉の渇きを覚える。ごくんと唾液を飲み込んだところで波止場がこちらを振り返り、足を止めた。
「波止場?」
呼びかけても返事をせず、波止場は周囲を見渡す。それからひとつの店を見つけて飛び込み、ソフトクリームを両手に持って戻ってきた。
「はい。これ、豆腐ソフトだって」
二つのソフトクリームは色が違う。白と黒だ。両方が俺に差し出される。
「白いのがバニラで、黒いのが黒ごまって書いてあったよ。好きなほう食べて」
「え、いいのか?」
「うん。王子くん、喉渇いてたみたいだから。でも自販機のジュースより、こういうご当地物っぽいアイスの方が喜んでくれるかなって」
波止場は照れたように笑い「あと、お蕎麦だけだとちょっと足りないよね」と付け足す。
ご当地アイスの方が嬉しいのも、蕎麦だけだと足りないのも、彼の言う通りだ。
「ありがと。マジで嬉しい。ちゃんとお礼するな」
その気持ちも、ソフトクリームも、彼が俺を分かってくれることも嬉しくて、黒ごまソフトを受け取りながら笑った。波止場も嬉しそうに笑う。
「うん。でも、お礼なんていいよ」
「何でだよ。ほら、まずソフトクリーム代返すぞ」
「いいって。王子くんにはお世話になってるから奢ってあげなさいって、お小遣いもらってるから……」
そういう波止場の手に小銭を握らせた。将来的に俺たちの財産は結婚により共有されるのだから、気にしないで欲しい。
「ん。ちゃんと払ったからな」
つい手を触ってしまったが小銭を渡すためなのでセーフと心の中で言い訳する。
「う、うん……。ありがとう……」
「お礼を言うのはこっちだって。アイス、ありがとな」
二人でアイスを食べながら再度参道へ向かう。アイスは甘くて、香ばしくて、冷たくて、心地よく喉をうるおしてくれた。
そのまま班のみんなでチケットを買い、木々の生い茂る通路を抜け、テレビやドラマでよく見る清水の舞台に立つ。
「わ、綺麗だね」
波止場が笑って舞台の柵に手をかけ、そこから広がる自然豊かな景色に目を細める。紅葉には少し早いものの、青々と茂る葉はそれだけで見応えがあった。
少し暑そうに波止場が汗を拭う。首筋が目に入って少しドキッとした。そこで波止場が俺を振り向き、首を傾げ、俺の視線をどう勘違いしたのか慌てたように笑みを作った。
「で、でも王子くんの方が綺麗だよ? ほんとだよ」
「……あははっ!」
使い古された台詞と真剣さに思わず笑ってしまった。褒めてくれたのにまずいかと思って笑いを引っ込めるが、波止場は嬉しそうににこにこしている。
「喜んでくれてよかった!」
大型犬のようにわふわふ喜ぶ様を見て、俺は今度こそしっかり笑ってしまった。